Movie「灼熱の魂」――母親のミステリアスな人生に隠された悔悟と贖罪
ファーストシーンから胸に強く焼きつけられる少年の眼差し。孤児院を襲って連れてきた子どもたち、テロ兵士に訓練するため坊主頭に刈っている兵士たち。不安そうな少年や諦めたようにうなだれる少年。その中で、ふてぶてしく鋭い視線を向ける一人の少年。中東のある国を舞台に、イスラム勢力とキリスト教勢力の尽きない戦闘が続いている。
政治的な背景よりも、宗教と信条の違いが激しい憎悪となり熱い闘争を生むのか。憎しみの連鎖を断ち切らせる悔悟と贖罪はどこからもたらされるのか。一人の女性・ナワルの厳しく痛切な生涯を、ジャンヌとシモンの双子の姉弟が紐解いていくミステリアスな展開に引き込まれていく。そして真実にたどり着いたときの愛と赦しの重さに圧倒される。
母のナワルはプールサイドで突然、放心状態になり数日後に他界した。公証人ルベンからジャンヌとシモンに手渡された2通の遺言状。死んだと思っていた父親と存在さえ知らされていなかった兄を捜して、それぞれに宛てた遺言状を手渡すようにという内容だった。シモンは馬鹿げていると怒るが、ジャンヌは「真実を知ることが大事」と言い、若いときの母の写真を手掛かりに、母の故郷の中東に旅立つ。
故郷での母ナワルへの風当たりは強く、親族からも協力を拒否される。それでも探し続けるジャンヌ。
キリスト教系のある村の家庭に育ったナワルだが、異教徒の青年と恋に落ち子どもを授かる。だが、子どもはすぐに取り上げられ、ナワルも村を追放されて、都会に住む叔父の家に身を寄せる。その町ではくすぶっていたキリスト教系とイスラム教系の対立が、ついに衝突し内戦状態へと発展した。そのどさくさに紛れて、引き離された子どもを捜す旅に出たナワル。載っていたバスが襲撃されるなど、危機を乗り越えて探し当てた孤児院はキリスト教系の部隊に襲われ子どもたちは連れ去られた後だった。絶望したナワルは、激しく熱い憎しみをキリスト教系右派の指導者に向け、イスラム教系に手を貸し暗殺計画を実行していく。
内戦の最中を生きるナワルの時代と、その人生を紐解くことで遺言状の宛名である父と兄を捜すジャンヌとシモン。二人の謎解きと行動が、人間の心に生じる憎悪と厳しい現実の薄皮を一枚一枚はがしていくようなミステリードラマとして練られているうまさ。
中東の砂漠の灼熱感と現代の空虚なまでの都会を対比するような映像美。結末の凄まじさからの重いメッセージは、映画の醍醐味と芸術性を堪能させてくれる。 【遠山清一】
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2010年/カナダ=フランス/131分/原題:Incendeis 配給:アルバトロス・フィルム 12月17日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。
公式Webサイト:http://www.shakunetsu-movie.com