Movie「ちづる」――自閉症をもつ家族のオープンなドキュメント
知的障害をもつ自閉症の千鶴さん(ちーちゃん、当時20歳)の一年間を、兄・正和さんと母親の久美さんがありのままに接し、ありのままの日常を映していくドキュメンタリー。
兄の赤正和監督が、立教大学現代心理学部映像身体学科の卒業制作として撮影・編集した作品。1歳11か月の時に自閉症と診断された妹を幼少時から見てきたが、自分の家族であり、人に妹のことをどう説明するかとなると難しい。「だから言葉で伝えるかわりにカメラを向けることにした」という。その率直な動機は、妹の自閉症をもつ生活者の姿を伝えるとともに、やがて家族とはという普遍的な問いを見るものに問いかけてくる。
オリンピックに買い物に出かけるのをはしゃいで喜び、大ファンのタレント・大友みなみから年賀状が届き「成人式おめでとう」との一言を見て、これまた大はしゃぎすちーちゃん。じつは母親が、成人式に行きたくないと言い出したため投函した年賀状だった。気を良くしたちーちゃんは、一転して成人式に行く気になった。
自分の思いのままに行動するちーちゃん。だが、家で犬を飼うことになった。母親といっしょにいって選んだ犬は、トイプードルで名前はバナナとつけた。はじめは待ち遠しくしていたちーちゃんだが、届けられる前日になると急に落ち込んだ。母親も気にかけていたことだが、バナナが家に着き、周囲の様子に慣れるとじゃれてくる。バナナとじゃれあううちにちーちゃんの機嫌もよくなってきた。何かにこだわり、家に引きこもりがちだが絵を描くのが好きなちーちゃん。その自由な行動に振り回されるような大変さも描かれていくが、屈託のない笑顔や不機嫌な行動を見つめるうちに、ちーちゃんその人の不思議な魅力にも引き込まれていく。
卒業制作として完成したドキュメンタリーに、心動かされた学生たちによって「ちづる」上映委員会が立ち上げられ、やがてキャンパスの中から、一般公開へと広がっていく。
10月29日よりポレポレ東中野、横浜ニューテアトルで公開中。公開当日は、ぴあ映画生活「映画満足度ランキング」の第1位になった。「勇気のいる行動だと思う。一緒に生活している姿を写し、日常の会話やケンカの場面など、カメラを意識せず撮られていて興味深い」「作品を観て初めてわかったことがあった。一歩前に踏み出す勇気をもらった」「自閉症とその家族という私の知らない世界を知ることができた。学生が撮ったとは思えない作品で驚いた」「初めて出会う、知らない家族なのにとても愛おしく感じた。重いテーマのように感じるが、それを微塵も感じさせないユーモアもあり、幸福感に満ちていた」など、観劇後の感想は飾らないで向き合う家族の姿に好感をもつ声が多いようだ。そこには、’障害者をもつ家族’だからではなく、’問題が何かを見つめ関わり合って対峙する’家族のあるべき姿に気づかされる。 【遠山清一】
監督・編集:赤正和 2011年/日本/79分 配給:「ちづる」上映委員会 10月29日(土)よりポレポレ東中野、横浜ニューテアトルにて公開中。11月26日(土)より札幌・シアターキノ、12月3日(土)より大阪・第七藝術劇場ほか公開予定
公式サイト:http://chizuru-movie.com