Movie「サラの鍵」――存在したいのちのへのカタルシス
多数の犠牲者がでた大災害や大事故、大事件を知ると、あまりの人数の多さに圧倒され’犠牲者’という数でしか悲惨さを認識できなくなってしまうことはないだろうか。その圧倒的な人数の一人ひとりに、喜びや悲しみ、夢と希望を目指して存在していた魂があることを捉えきれなくなってしまう。70年前のある朝、突然やってきた警官たちに拘束され、家族とともに強制収容所へ送られた’サラ’という少女。そのサラの人生と魂が確かに存在したことを、現代に生きる者としてしっかり受け止めていくことの深さに胸が熱くなる。
1942年7月16日に起きたフランス警察によるパリでのユダヤ人一斉検挙。市内の屋内自転車競技場(ヴェル・ディヴ)に、4千人を超える子どもたちを含め1万3千人余が強制収容された。フランス政府は、当時の傀儡(かいらい)政権はフランスではないとして95年まで公的にはフランスの事件とは認めていなかった。この事件の特集を担当するアメリカ人ジャーナリストのジュリアは、フランス人の夫ベルトランの実家の改装を見に行く。そこが、かつてユダヤ人居住区であったことに気づくジュリア。しかも、夫ベルトランの父
親がまだ子どもだった42年に引っ越してきている。なぜなのか?、それまで住んでいたユダヤ人家族は誰で、どうなったのか?。か細い記録の糸を調べ、聞き取り取材をするうち少女サラとその家族が、かつての住人であったことに辿り着く。だが、強制収容所の犠牲者リストに両親の名前はあったが、サラと弟の名前は見つからない。もしかしたら、生きているかもしれない。。。
ヴェル・ディヴ事件当時の少女サラの身に起こった悲惨な出来事と、現代のジュリアを取り巻く状況が交互に物語られていく。警察官がドアをたたく音に、危険を察知し弟を納戸に匿い鍵をかけたサラ。「すぐに帰ってくるから」と弟に約束したが、そのままヴェル・ディヴに収容され、仮収容所へと移送されてしまう。両親からも責められ、自身も心に深い負い目を抱いていたサラは、必死に仮収容所を脱走しパリへ向かう。。。
少女サラとその家族を調べることは、夫の家族の秘密にも触れるかもしれない。サラの弟はどうなったのか、また、その後のサラはどのような人生を歩んだのか。脱出したサラを匿った夫婦、成人したサラと関わった人々など、ジャーナリストのジュリアは、ヴェル・ディヴ事件の犠牲者たちの取材を超えて、犠牲者一人ひとりの命に現代からの光を当てて、その存在に息吹を甦らせていく。 1万3千人の中に埋もれていたサラ。彼女が、一人の存在者として現代の私たちに伝えられるラストシーン。重く辛いひと時だが、清かな光へのカタルシスに触れる思いがする。 【遠山清一】
監督:ジル・パケ=ブレネール 2010年/フランス/111分/英題:Sara’s Key 配給:ギャガ、12月17日(土)より銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://sara.gaga.ne.jp