Movie「“私”を生きる」――教育の統制化は子どもたちを縛っていく
教育現場での右傾化と教育委員会による’教師の統制’は、着実に推し進められてきた。このドキュメンタリーは、公立学校での「君が代・日の丸」の強制に抗してきた3人の教員たち。土井敏邦監督の’戦前への回帰に抵抗し、自分が自分であり続けるために凛として闘う、3人の教師たちの生き様の記録’というのことばが、そのまま現在進行形の統制の事実を伝えている。
元中学校での家庭科教員の根津公子さん。家庭科を教えたくて教員になり、授業内容に創意工夫を凝らして臨んでいた。だが、家庭にとって重要なテーマとして性差別の問題を授業に取り入れたことから東京都教育委員会(都教委)の指導と対立。自分自身の信教の自由からも卒業式などで「君が代」斉唱に不起立を貫いたことから、11回の懲戒処分を受けた。なぜ不起立なのか。その心情と懲戒処分の期間中も毎日’校門登校’して、生徒や教師たちはじめ道行く人たちにも静かに訴える姿を追う。
小学校の音楽教員の佐藤美和子さん。卒業式では「日の丸」掲揚に対して一人の人間としての自由意思があることを子どもたちに伝えたいと、ピースリボンに似た手作りのリボンをつけて式に臨んだ。その行為が、職務専念義務に違反するとして都教委から訓戒処分が下された。佐藤さんは翌年から卒業式で「君が代」のピアノ伴奏を強要されてきたが、クリスチャンとして信仰の良心からも演奏できないとして拒否し続けている。そのことに対する対応は露骨で、志望と正反対の勤務地の移動や報復的な人事異動などのより胃から大量の出血で緊急入院するほどの危険な状態に陥った。
ただ一人、教育現場で管理職の立場にいた元三鷹高校校長の土肥信雄さんは、毎朝、投稿する生徒たち一人ひとりに名前を呼んで声をかけ、生徒たちからも慕われていた。授業や朝礼では言論の自由と平和主義、基本的人権の大切さを教えてきた。だが、都教委から職員会議での挙手採決禁止の通達が出される「民主主義の教育現場に馴染まない」として撤回を要求した。そして、定年退職後に教師としての再雇用を教育委員会が拒否したのは不当として提訴した。
地域政党「大阪維新の会」の立候補者が大阪府知事、大阪市知事に当選した。教育に対する首長の権限教化などを内容とする大阪府教育基本条例の制定へ動きなど、教育現場に対する強制と自由な教育排除の傾向は一層深まりつつある。教員たちが生活権を脅かされつつ、上意下達に無批判な教育しかできない環境に陥るとき。何らかの報告に教育されていく子どもたちの環境が出現する。教育現場で「’私’を生きる」ことの意味が、自分の問題としても迫ってくる。 【遠山清一】
監督:土井敏邦( http://www.doi-toshikuni.net/j/info/ikiru.html) 2010年/日本/138分 配給:浦安ドキュメンタリーオフィス 2012年1月14日(土)―27日(金)まで東京・オーディトリウム渋谷(http://a-shibuya.jp )で限定ロードショー(連日12:50より一日1回上映)。