映画「パトリオット・デイ」――悪に立ち向かう“唯一の武器”がもたらした市民の一致と団結
アメリカの祝日「愛国者の日」(パトリオット・デイ:4月第3月曜日)に毎年開催されるボストンマラソン(1897年)。19世紀末に始まり近代オリンピックに次いで歴史のあるスポーツ大会の一つで、世界的なマラソン大会として初めて女性ランナーの出場を認めた伝統と誇りをもっている。だが、トップアスリートを含めたランナー3万人に50万人の観衆が参集した2013年の第117回大会は、開始4時間後にゴール付近で爆弾テロ事件が発生。280名を超す犠牲者を出しレースは中断された。4日後、実行犯逮捕に至ったプロセスを時系列的に描いたドキュドラマ。“BOSTON STRONG”を合言葉に、死傷した犠牲者たちを励まし、一致団結して捜査協力に立ち上がるボストン市民たち。爆弾テロによってアメリカの自由尊重と安全への信頼に挑戦した暴虐行為は、暴力による報復ではなく自由な意志と愛と励ましの連帯を市民に湧きあがらせていく姿が強く心に刻まれる。
【あらすじ】
2013年4月15日、ボストン・マラソン当日。一般ランナーたちが続々とゴールに走りこんでくる。42.195Kmを完走した満足そうな表情を観衆が拍手で迎える。午後2時45分頃、ゴール付近の観客ゾーン前列で2回の爆発が起こりパニック状態に。飛び散る手足と流血。逃げ惑う人や、まだ爆弾が仕掛けられている危険を顧みず救急隊が到着するまで励ます人たち。セキュリティに駆り出されていたボストン警察殺人課の巡査部長トミー・サンダース(マーク・ウォールバーグ)は現場の混乱の収拾と救助、犯人逃亡阻止のための指示を矢継ぎ早に連絡する。気になっていた妻キャロル(ミシェル・モナハン)の無事が確認できたが、死亡者は3人、その一人は8歳の男の子だが証拠品確保のため長時間その場に置かれたままだった。
FBI、警察署長、知事らが到着し、テロ事件と判断されリック・デローリエFBI特別捜査官(ケヴィン・ベーコン)が捜査指揮を執ることになった。捜査本部がボストン港近くにある巨大なブラック・ファルコン・ターミナル倉庫に設置された。事件現場と等距離に設えられたマーキング。監視カメラを分析していた捜査官が、黒い帽子と白い帽子をかぶった不審な二人連れの男たちを見つける。まだ苦痛の中にある被害者から実行犯に繋がる情報収集に努めていたトミーが、捜査本部に呼び出された。監視カメラに映る実行犯らの行動を、現場を模した捜査本部で行動した方向やかかった時間を推定し監視カメラの再生でチェックするためだ。
テレビ局も実行犯らしい二人の男たちを特定し、市民の協力を求めるためニュース報道で放送するとの情報が捜査本部に入った。確定するまでは公表しない考えだったデローリエ特別捜査官だったが、やむをえず記者会見を開き公表に踏み切る。テレビで成り行きを見ていた実行犯の“黒い帽子にサングラスの男”ジョハル・ツァルナエフ(アレックス・ウルフ)と“白い帽子の男”タメルラン・ツァルナエフ(セモ・メリキッゼ)の兄弟は、ニューヨークでの爆弾テロ計画を実施するため車に爆弾を積みボストンからの逃亡をはかる。
タメルランの拳銃を入手するためマサチューセッツ工科大学で警戒していたショーン・コリア巡査を殺害した二人は、ベンツSUV車に乗っていた中国人留学生ダン・マン(ジミー・O・ヤン)を拉致連行する。だが、給油に立ち寄ったスタンドのコンビニでダンの銀行口座から現金を引き出し、食料を購入しているすきを見て逃亡に成功した。GPSの追跡番号を警察に通報するダン。捜査の網はツァルナエフ兄弟に迫り、ついに隣町のウォータータウンで発見し激しい銃撃戦が始まる…。
【見どころ・エピソード】
爆弾テロ発生から102時間で実行犯逮捕に至ったこの事件の経過が、ほとんど実在の人物からの証言と監視カメラなどリアルな素材を駆使してドキュメンタリータッチに演出しているためなんとも身につまされるリアリティとサスペンスに引き付けられる。ただ、市民を守るために戦う警察という視点が明確で、主人公のトミー・サンダースは幾人かの警察官をモデルに描かれた架空の人物。だが、たんに事件経過の進展を分かりやすくするための狂言回しの役割を越えて、警察官としての人間性を感性豊かに体現させている。実行犯たちの暴挙を“勝てない相手への無謀な挑戦”捉えている一方で、“目には目を”的な対応では悪には勝てない。悪に立ち向かう武器は、傷ついた市民を危険を顧みず介護し避難させる市民の愛、愛の励ましに応えて再び立ち上がろうとする自由という想いを同僚に語るシークエンスは、勧善懲悪なヒロイズムを越えて心に響いてくる。 【遠山清一】
監督:ピーター・バーグ 2016年/アメリカ/133分/映倫:PG12/原題:Patriots Day 配給:キノフィルムズ 2017年6月9日(金)より全国ロードショー。
公式サイト http://www.patriotsday.jp/
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