映画「孤島の王」のフライヤー ©les films du losange
映画「孤島の王」のフライヤー ©les films du losange

4月28日(土)のゴールデンウィークから公開されるノルウェー=フランス=スウェーデン=ポーランド合作映画「孤島の王」。ノルウェーのオスロ市から南東へ75km離れたバストイ島は1900年から70年まで実在した少年矯正施設。ここで1917年に起きた少年たちの反乱事件と収容されていた少年たちがどのような生活をしていたのかについては、ノルウェーの人たちにもほとんど知られていなかった。実話に基づいてバストイ島での実態と事件を映画化した本作のマリウス・ホルスト監督とのインタビュー。  【遠山清一】

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http://クリスチャン新聞.com/?p=1582

――本作では、バストイ島少年矯正施設を舞台に、教育の名のもとに8歳から18歳までの少年たちに厳格な規則への順応と、さまざまな暴力が加えられ、胸が切なくなりました。どのような犯罪を犯した少年たちが収容されていたのでしょうか?
ホルスト監督: 当時のバストイ島は罪を犯して入っている子どもたちは実は多くなかったのです。貧民階級の子どもや片親の子どもなど、普通の生活を送るのが難しい子どもたちを教会が預かって路上生活者にならないよう最低限の教育を受けさせるためにこの施設に送っていたので、実際は孤児院と少年院を足して2で割ったような施設だった。
映画の設定も同じようにしています。映画の中で「教会のお金を盗んだ」という少年が出てくるが、そういった少年も実際にいました。

――バストイ島少年矯正施設は、体罰による矯正ではなく、子どもたちの学習と生活環境に合った矯正を与えることによって再犯罪への芽を正していこうという新しい思潮のモデルであったと聞いています。
ホルスト監督: 10歳くらいの頃、私は首都オスロに住んでいました。オスロから一時間程度で行ける近海にバストイ島があり、そこには昔少年矯正施設があったという話を聞いたことがありました。しかし、それはまるで自分の住んでいるノルウェーという国にあったとはとても思えず、まるでどこかしらない国の神話やおとぎ話のように感じていました。

所長役のステラン・スカルスガルドとホルスト監督(右) ©les films du losange
所長役のステラン・スカルスガルドとホルスト監督(右) ©les films du losange

そして大人になり、映画を学び、最初の映画を撮り終わった後に、1930年代に9歳から16歳までの期間をバストイの施設で過ごしていた老人に偶然話を聞く機会がありました。そして興味を持ってリサーチしていくうちに自分がまるで神話やおとぎ話のように感じていたバストイ島の少年矯正施設が、実は外界と隔離された世界で、目を背けたくなるような虐待が島内で横行していたこと、また入所していた少年たちは、ほとんどが罪を犯したわけではなく、貧困などが要因で親が育てることが出来ず、施設に預けられた少年たちだったことを知り、大変なショックを受けました。自分が今までおとぎ話のように感じながらも事実だと思っていたことが、事実ではなかったのです。

――そうした理想と現実のギャップや権力と暴力による強要は、現代の様々な状況でも起こりうることですが、本作品を通して日本の人たちに気づいてほしい監督のメッセージはありますか?
ホルスト監督:
規模は違いますが国家や政治、宗教団体など、現代にも閉鎖された社会や施設というのは存在し、閉鎖的であるがゆえに限られた情報しか与えられず、全く違うことがその中では行われているかもしれないと疑問を持つことはほとんどありません。この忘れ去られてしまった歴史の、知られざる真実を描くことによって、現代の閉鎖的な物事には二面性があるということを知ってもらいたかったのです。

――バストイ島の厳しい自然の描写が、美しく印象的でもあり、一方では現実の峻厳さを感じさせるものでもありました。これは、現代ノルウェーなど北欧諸国の受刑者の人権がもっとも尊重されているといわれることに関連して、何か黙示的な演出なのでしょうか?
ホルスト監督: 特に黙示的な演出ではありません。

img4f950947b4ec8 ――現代のノルウェーや北欧では、人権を守る制度が発達する中で、子どもたちの心や置かれている状況を受け止める大人の存在や教会的な働きはあるのでしょうか?
ホルスト監督: 昔は国自体が大変貧しく教会への依存度は大変高かった。もちろん今でも教会には人道的な動きはあるが、当時に比べたら国が豊かになり、福祉が充実して人々は教会に頼らずとも社会の仕組みの中で子どもたちの状況を受け止める体制は整っていると思います。

――日本の映画ファンに、ノルウェー映画の現代的なアピールポイントを短い言葉で伝えていただけますか。
ホルスト監督: 難しいですね・・・同じ普遍的なテーマを扱ってもその国独自の表現というか語り口が出てくるものなので、自然に受け止めて日本との表現の仕方の違いを楽しんでいただければよいのではないでしょうか。

現在は、囚人の人権擁護にも篤いと評されるノルウェーはじめ北欧諸国。児童養護施設と少年院が分け隔てなく収容されていた時代があったことに驚かされる。

映画「孤島の王」は、当時の教育の根底に’聖書’を字面で応用し、子どもたちの心を抑圧しようとする施設の現場と、良い制度を目指す理念との大きなギャップをシリアスに描いていく。施設に壁を作り、規則で心を囲おうとしても、自由を求める意志は覆い隠せない。公義と公正を欠いた過酷な環境に置かれても、自分の意志を失うまいとする子どもたちの姿が印象深い作品だ。

マリウス・ホルスト(Marius Holst):
1965年生まれ。ロンドン国立映画スクールに学ぶ。卒業制作の「Visiting Hours」が90年のBBCドラマ賞を獲得。初の長編「Tikniver i hjertet」(95年)でベルリン国際映画祭ブルー・エンジェル賞を受賞。本作「KONGEN AV BASTOY」は、ノルウェーのアマンダ・アワードにて最優秀作品賞・最優秀脚本賞・最優秀助演男優賞・音楽賞の4部門を受賞。ベルリン国際映画祭では最優秀作品賞・観客賞を受賞したほか各国の映画祭で評価された。

監督:マリウス・ホルスト 2010年/ノルウェー=フランス=スウェーデン=ポーランド/117分/原題:Kongen av Bastoy 配給:アルシネテラン 2012年4月28日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか順次全国公開。

公式サイト:http://www.alcine-terran.com/kotou/