夢をあきらめずに、前に歩み続けるパウラ
夢をあきらめずに、前に歩み続けるパウラ

静岡県浜松市は、在日ブラジル人が日本で一番多く住んでいる町。’デカセギ’にきた親と一緒に来た子どもや青年たちもいれば、日本で生まれて十数年暮らしている子どももいる。外国籍であるため、日本の義務教育は保障されていない。家庭ではポルトガル語、中学校では日本語、ついていけない授業の進度に中退したものの満足な職には就けない。親の母国とファミリールーツの日本。どちらが自分の母国なのか。そうした厳しい現実を生きる5人の日系4世ブラジル人の若者たちを、2年半にわたって追ったドキュメンタリー。生まれてきて、いまここにいる自分。多少気持ちは荒れても、自分の夢を見つめ、生きようとする彼らの目は、後ろ向きの暗さではなく今と前を向いて輝いている。

2008年、リーマン・ショック直後の世界的不況の影響を受けて、多くの在日日系ブラジル人が解雇され母国ブラジルへの帰国者が急増した。浜松学院大学教授で多文化教育を研究する津村公博と映画監督の中村真夕が、テレビ取材で浜松の夜の街を同行取材する。そうして出会った19歳の青年エドアルド。8歳の時に父親と死別し、母親と暮らしてきた。「親は自分みたいになっちゃダメって言う。工場で働いても何も学ばないし、未来もない‥」と言われてきたが、中学は中退して工場で働いてきた。それでもブラジル人中学生のための進学教室で英語を教えているが、不況から自分も職を失う。ブラジルへの帰国するしかない気持ちになった時、日本に残ってやり直せそうな機会を得た。厳しい状況だがチャレンジしようとする。

15歳の少女パウラは、日本で生まれ育った。11歳の時スカウトされてモデル事務所に所属したこともあった。だが、浮き沈みの激しい中で解雇され、中卒で工場に勤めた。恋人との出会いもあって幸せな日々であったが、突然両親がブラジルに帰国すると言い出した。悩んだが、見たこともないブラジルへ両親と帰ることになった。そこでは、新たな試練がまっていた。

19歳のユリは、10歳の時に両親と日本に来た。だが、中学で非行がはじまり暴走族に入る。南米人ギャング団をつくり車上荒らしで捕まって1年間少年院に入る。退院すると間もなく、ブラジルへ帰国する決断をする。自分を裏切った父親と和解することを望んで。

ダンスに夢をかけるコカ(後列中央)とフロワーモンスターズのメンバー
ダンスに夢をかけるコカ(後列中央)とフロワーモンスターズのメンバー

22歳のコカは、地元では知られているヒップホップのダンスチーム・フロワーモンスターズのリーダー。だが、彼もまた不況のため仕事を失った。家族と共に帰国を余儀なくされ、「むこうで技を磨いて、必ず帰って来る。それまでフロワーを続けてくれ」と残されたメンバーにグループを託して帰国する。

数か月後、リーダーを失い解散寸前のチームに初代リーダーだった22歳のオタビオが戻ってきた。コカと同様に、ダンスに夢をかけてチームを作り、いまもダンスを信じているオタビオは、チームを再起動させる。交通事故に遭い生死をさまよう経験をとおしてキリストに出会い、キリスト教を伝えていく決心をする。ダンスが出来るまでに快復した今は、教会でダンスを教えている。だが、その彼もブラジルへ帰らなければならない状況が迫ってくる。

働く意欲があり、日本に定住し生活していきたい思いがあっても、それが適わずに家族、恋人、仲間たちと別れ、ブラジルに帰国しなければならない日系ブラジル人の若者たち。ブラジルでも約束された生活が待っているわけではない。出自を憂い嘆くこともなく、自分の夢や生きる希望を失わない。

‘孤独なツバメ’のタイトルが、暗さだけのような誤解を生まないようにと願う。たしかに彼らの現実は厳しい。だが、その現実を与えているのも、彼らの傍に寄り添うべき存在も、大人なのだ。その自戒とともに、彼らが決して’孤独’と思われるような状況に負けていないで、見つめるものを求めている姿が心に残る。その心の思いを理解されない’デカセギの子どもたち’。

聖書は、神を信じ伝えた信仰の先達たちついてヘブル人の手紙11章13-14節で「これらの人々はみな、信仰の人々として死にました。約束のものを手に入れることはありませんでしたが、はるかにそれを見て喜び迎え、地上では旅人であり寄留者であることを告白していたのです。彼らはこのように言うことによって、自分の故郷を求めていることを示しています。」と述べている。心の中に’ホーム’を求める若者たちの姿を見て、この聖句を思い起こされた。

監督:津村公博、中村真夕 2011年/日本/88分 配給:アルゴ・ピクチャーズ 2012年5月26日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

公式サイト:http://www.lonelyswallows.com