'命の縁側'「コーヒーハウスよってもんせ」のカウンターに立つ袴田俊英さん ©『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部
‘命の縁側’「コーヒーハウスよってもんせ」のカウンターに立つ袴田俊英さん ©『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部

自死する人が、13年連続して毎年3万人を超している日本。秋田県は、15年連続して自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)日本一を記録した。このままでは、いけない。何とかしなければと、自殺予防を啓発する市民団体や自死遺族の相互交流を深める会などを立ち上げた人たち。その已むに已まれぬ思いと互いに協力し合う努力が、気負わない姿で伝えらているドキュメンタリー。

秋田の自殺要望対策活動が注目されてきているが、作品では白神山地の麓にある人口4000人ほどの藤里町の活動を中心に追っている。

町の中心地にある交流館内の「コーヒーサロンよったもれ」。毎週一日開かれる’命の縁側’を町民有志によって起ち上げられた民間団体「心といのちを考える会」が運営している。会長を務める袴田俊英(曹洞宗・月宗寺住職)さんらは、「自分たちに出来ることは、ひととひとをつなぎ、人の輪をつくること」と、コーヒーサロンを立ち上げた。気さくな語らいの中から、ここでの地域性を大事にしたことから出来ることをやっていこうと考えられている。そして地元の伝統芸能「よさこい」のチーム「素波里 貉(むじな)」の人たちとのかかわりが新たな輪が広がりつつある。

秋田市で事業経営者とその家族の自殺予防活動をしているNPO法人「蜘蛛の糸」。理事長の佐藤久男さんは、バブル崩壊時に経営していた2つの会社が倒産し、自死した友人の経営者仲間もいる。その苦しい経験から、痛みと苦しみのわかる’先輩’として苦境にある経営者らの聞き役・相談相手になっている。自死遺族の自助グループ「藍の会」代表の田中幸子さんは、「全国自死遺族連絡会」の事務局も務める。自身、一人息子を自死によって亡くしているが、遺族の声が自殺対策に反映されることは自殺減少につながると考えている。秋田県には、まだ遺族による自助グループがないため、仙台から袴田さんを訪ねてきている。

自殺予防対策は、何よりも人と人とのつながりと地域性を大事にして、全年齢層的に取り組まれている。 ©『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部
自殺予防対策は、何よりも人と人とのつながりと地域性を大事にして、全年齢層的に取り組まれている。 ©『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部

袴田さんと佐藤さんは、自殺対策の民間団体が連携する必要を覚えて「秋田こころのネットワーク」を呼び掛け、参加団体も結成当初の9団体から20団体を超える広がりを見せている。そして、行政や医師会、商工会議所、老人クラブなど様々な団体が参加する「秋田ふきのとう県民運動実行委員会」も設立された。そこでの様々な意見交換と考え方の共有化。手間のかかるプロセスだが、着実に人と人のつながりは広がり、地域性を考えた’共生’へと歩み始めている。

親しい者の’自死’は、遺族や親しい者たちに深い影を落とす。その予防対策と励ましに、人のつながりと孤立させないための地域の理解の重要さが、真摯に伝わってくる。日本の教会には、’伝道と証し’理解の強さからか、地域にある教会の存在と関係の見えにくさがあるのかもしれない。地域での人のつながり、地域文化の共有、市民社会の一員としての協調など、’宣教と共生’をどのように考え、教会的に「希望のシグナル」を発信していけるのか。そういう意味では、チャレンジを実感させられる’提言’だ。  【遠山清一】

監督:都鳥伸也 2012年/日本/102分/ 配給:ロングラン・映像メディア事業部 2012年6月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

公式サイト:http://ksignal-cinema.main.jp