Movie「フクシマからの風」――どっこい、ここで生きている
福島第一原発の事故により高汚染地域とされた計画的避難区域に設定された福島県飯館村と川内村。放射線量の高い飯館村では、帰村か新村への集団移住かなど今後の方針に関する混乱も報じられている。
その飯館村、川内村に自らの理念と意思をもって住み続けている人たちがいる。加藤鉄監督は、この作品で4人の人たちの生き方と心の想いを追う。経済優先の社会構造の中で、忘れかけてきた自然と人間との知恵のある営み。踏みしめてきた大地と共栄してきた自然の恵みと生き物たち。それらを簡単に見切らない’いのち’のつながりを静かに記録していく。
福島第一原発事故後、昨年4月に行われた飯館村での東京電力による説明会。村長から住民への「避難勧告」に混乱する会場。そして、ある畜産農家での牛の処分の様子など生活現場で個人が抱えている問題へと気持ちが向かられていく。
この第一章で、その生き方が語られれていくのは4組の人たち。飯館村の菅野昌基さん(85歳)は、広大な山を所有し山草や薬草を移植し、育てながら研究している。長年連れ添ってきた妻のとし子さんと暮らしから様々な知識を得て、豊かな知恵のある生活を楽しんでいる。いまは、発見した発根剤を放射能の除染に使えないかと知恵を絞っている。
川内村に住む志賀常次さん(84歳)は、数か月前に双葉町の病院に入院していた奥さんを亡くした。自宅を離れて暮らすつもりはない。むしろ田畑を後継する人を農協や役場に依頼している。自家製のドブロクを飲みながら、家の周りに施した様々な工夫とモリアオガエルを守る楽しさをいきいき語る。
川内村近くの山奥にある獏原人村。1970年代中ごろから風見正博さん(62歳)ら仲間7人が開墾を始めた村だ。いまは風見さん夫妻二人だけしか残っていないが、開墾した1万坪を超える獏原人村で、鶏卵で現金収入を得て暮らしてきた。電機は太陽光発電器で賄っている。放射線量は毎日チェックしている。豊かな生活を守るためにクリーンで安全な原発は必要と言いくるめられてきた果てに起きている現状。そうした状況におもねることなく3人の子どもたちを育て上げて生きてきた。「だまされんじゃねぇ」と自作の曲を作っても、自らに向ける自己責任の厳しい視点と発言が、原子力発電の恩恵の中で暮らしてきた一般の私たちの胸を突く。
飯館村に住む小林麻里さんは、3年前に夫を亡くした。やはり、よそへ移住するつもりはない。自宅のある谷間の水面に映し出される自然の美しさを取り戻したいと願っている。いまは春。夏になるとこの谷間に蛍が群生するという。
監督:加藤 鉄 2012年/日本/100分 配給:東風舎 2012年7月28日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー
公式サイト:http://fukushima.xrea.jp