映画「君はひとりじゃない」--カタチのない心の拠り所を求めて…
オープニングのシークエンスは、驚きと戸惑いのクエスチョンを観る者に投げつけている。人間の身体と心は、己の生存をどのように認識してるのだろうか。愛する者を亡くした父娘と女性セラピストの3人の物語は、この問いかけの糸を手繰り合いながらカタチのない心の拠り所を求めていく。
【あらすじ】
検察官のヤヌシュ(ヤヌシュ・ガヨス)が、川辺の木で起きた首つり事件の現場に到着した。どうやら自殺らしい。すで死体確認された男の遺体が横たわっていて、現場付近を警察官らが物証探しに散っている。すると死んだはずの男がむっくり起き上がり、ふらつきながら川の方へ歩いていく。その様子をヤヌシュはただ黙って見つめている。
ヤヌシュは妻の死後、事件現場で死体を見ても何も感じられなくなっていた。どんなに凄惨な死体を見ても平気で食事が摂れる。むしろ過食気味でメタボ体型そのもの。一方で、娘のオルガ(ユスティナ・スワラ)は、摂食障害を患い身体はやせ細っていき心を閉ざしている。ヤヌシュは、そんなオルガにどのように接すればいいのかも分からず、二人の溝は深まっていくばかり。
ヤヌシュは、オルガを精神科専門病院に入院させた。オルガのリハビリは、セラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)が担当した。アンナは新しい治療方法を積極的に取り入れるため病院の中では少し目立つ存在だが、オルガの内面奥深くに在った様々な感情が引き出されていく。
アンナもまた幼い息子を亡くしていた。スピリチャルな経験を語り合う集会に参加しているアンナは、死者の霊と交信し自動筆記で死者からのメッセージを書き写す能力を持っている。そんななかヤヌシュの家では、かけていないレコードが鳴り出して隣人からクレームがくるなど不思議な出来事が引き続き起きていた。それを知ったアンナは、ヤヌシュに亡くなった妻からのメッセージを伝えたいと交霊の実施を持ちかける。だが、ヤヌシュは拒否したが、ある晩に亡き妻と自分しか知らないことが書かれた手紙が引き出しの中に入っていた。ヤヌシュは、アンアンを訪ねてオルガと3人での交霊を依頼する…。
【見どころ・エピソード】
本作のポーランド語原題Cialo(英語ではBody)。そのことについてシュモフスカ監督は、あるインタビューに答えて「身体というものは--物理的なものであれ、霊的なものであれ、死んだものであれ--物体として取り扱われることもあれば、崇拝されることもあり、憎まれることもあります。だからこの物語は身体というテーマから生まれてきたとも言えるのです」と語っている。日常的に死体を見ているヤヌシュは、死体は物体に過ぎないもので“死”についても何も感じなくなっていて、信じられるものない。自分の身体を痛めつけるほど憎悪をむき出しにするオルガ。アンナは、霊魂の存在を信じていて既成宗教ではない救いをヤヌシュにも信じさせようとする。三者三様に捉われている身体と存在し生きていくことの意味を求める描写がなんとも印象に残る作品だった。 【遠山清一】
監督:マウゴシュカ・シュモフスカ 2015年/ポーランド/90分/映倫:G/原題:Body/Cialo 配給:シンカ 2017年7月22日(土)よりシネマート新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト http://hitorijanai.jp
Facebook https://www.facebook.com/hitorijanai.movie/
*AWARD*
2015年:第65回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。第28回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映作品。 2016年:ポーランド映画祭2016上映作品。