©Bona Entertainment Co. Ltd.
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血のつながりだけが家族ではない。血縁がなくとも愛情が家族に育てていくことを、素直に信じさせてくれる。’老い’ていく人生への励ましと慰めに満ちた作品だ。

香港の裕福な一家で、13歳から70代半ばまでメイド(家政婦)として60年間も4代の主に仕えてきた桃(タオ)さん(デニー・イップ)。主人の家族は香港に生家や家作はあるもののアメリカはじめ外国で暮らしている。今の主人は、独り香港で映画プロデューサーの仕事をしている長男ロジャー。

朝起きると、リビングのテーブルに用意されている料理。何も言わずに食べ始めるロジャー(アンディ・ラウ)。キッチンでデザートを作っていた桃さんは、お変わりのタイミングを見計らってロジャーの傍に行き、黙って出されたお茶碗にご飯をよそる。食べ終われば、声をかけずともデザートがでてくる。ロジャーの好物はもちろん知っている。だが、何気に好物を要求されても、「この間、食べたばかりでしょう」とばかりに、しっかり栄養のバランスと健康への配慮のもとにさり気なく諭す。当然、家の中には塵一つないほど行きわたって整理されている。主従関係は明確に描かれているが、ロジャーの言葉には横柄さもなく、親しみと信頼の気持ちにあふれている。

ロジャーも裕福な家に生まれ育ってきたが、中国本土の資本と映画製作するビジネスを進めている。一筋縄ではいかないスポンサーから追加資金を引き出すため、監督仲間と一芝居うつ現実主義者でもある。だが、仕事を終えて帰宅すると家の玄関は閉まったまま。呼び鈴を押しても桃さんの返答はない。脳梗塞で倒れていた。幸い、軽い症状で一命を取り留めたが、桃さんは自分の年齢と状況を考え、迷惑はかけたくないので「家政婦を辞めて、老人ホームに入る」とロジャーに申し出る。

家族と自分の世話をすることに心を砕いてきた桃さんが、悪質な老人ホームに引っかからないためだといって、ロジャーは自宅近くの老人ホームを探し歩く。細かな経費項目と金額について質問すると、面倒臭がった受付嬢が強面マネージャの’バッタ’(アンソニー・ウォン)を呼んできた。偶然二人は、昔のいたずら仲間だった。長年仕えてくれた桃さんのために、自分が費用を出して老人ホームの個室を探していると聞き、’バッタ’はロジャーがいつでも桃さんを見舞いに行ける老人ホームを紹介する。

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長年仕えた家から、見知らぬ人たちと共同生活する老人ホームに入居した桃さん。個室とは名ばかりで衝立とカーテンで仕切られだけ。夜になればうめき声や徘徊する物音が聞こえてくる。掃除と片付けが得意だった桃さんには、雑然とした環境も入居者たちの人間模様にも目を日張るばかり。そんなリハビリの日々だが、時間を見つけては見舞に来るロジャーの訪問が、桃さんの唯一待ち遠しいときになってきた。親しげな二人の雰囲気は老人ホームの人たちにも注視されるようになり、「義理の息子さんかい」という問いに、ロジャーは「はい」とうれしそうに答える。その一言に桃さんのはにかみと誇らしそうな様子がうっすらと漂う。

リハビリは進み元気を取り戻してきた桃さんだが、入居者のガムさんがなくなり、病が重くなったムイさんが治療のために転院していった。老いていくことの現実に、桃さんは人生を見つめ、考えはじめ、身体の容態も悪化していった。

自分の稼ぎで桃さんの面倒を最後まで見ようとするロジャー。アメリカからロジャーの母親も桃さんを見舞いに来た。ロジャーの甥が1歳になる誕生会を香港に集まって開き、桃さんも家族のように温かく迎えられる。悪人が一人も出てこないような映画だが、思えば、小さなことにも忠実に仕え、心を込めて行ってきた生き方には、大きな結果が実を結ぶ仕事を果たしているのかもしれない。

香港社会の老人ホームや老人問題の現実をさり気なくリアルに描きながら、生きていることの幸せ、人生の価値観を分かち合える関係を育める生き方に、愛と希望と信頼をもってチャレンジしたい。 【遠山清一】

監督:アン・ホイ 2011年/中国=香港/119分/原題:桃姐 2012年10月22日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国公開

公式サイト:http://taosan.net