Movie「最終目的地」――人は“故郷”を探し求めて生きている
ラテンアメリカにあって民主主義の意識が高いウルグアイを舞台に、暮らしの安定だけでは満たされ得ない心の高嶺を求めて生きる姿を、J・アイヴォリー監督は美しい映像と文学的香りの高い演出で描いていく。人それぞれに独りでは生きられず、心に帰るべき’故郷’を探し求めている姿が哀しくも美しい。
物語は、伝記作家を目指し大学院の研究奨学金を取得するため、著書一冊残して自殺した作家ユルス・グントの伝記執筆を申請したアメリカ人青年のオマー・ラザギ(オマー・メトワリー)。だが、グントの遺言執行者3人からは、執筆拒否の手紙が届いた。恋人ディアドラ(アレクサンドラ・マリア・ララ)は、諦めず遺言執行者らが住むウルグアイへ行き直接交渉するよう強く勧めてオマーを送り出す。
ウルグアイのグントの家は、人里離れた所に広大な土地を有し’オチョ・リオス’と呼ばれていた。いまは、ユルスの兄アダム(アンソニー・ホプキンス)とユルスの妻キャロライン(ローラ・リニー)、ユルスの愛人アーデン(シャルロット・ゲンズブール)の3人の遺言執行者とユルスの幼い娘ポーシャ、アダムが日本から連れてきたパートナーのピート(真田広之)らと使用人たちが暮らしていた。
ユルスが暮らしていた家で居候生活しながら遺言執行者の3人を説得していくオマー。複雑な立場と関係ながら平穏な暮らしの中にいた’オチョ・リオス’の人たちにとって、アメリカ人青年オマーの存在は、しだいに刺激になっていく。最初に執筆の許可を出したのは兄のアダム。だが、オマーに少し危険が伴う交換条件を示す。両親を亡くした若い愛人だったアーデンは、年が近い青年との恋を知らない。オマーと親しくなるうち、オマーもアーデンのピュアな感性に魅かれていく。最後まで伝記の執筆を拒否するのは妻のキャロライン。ユルスが生前に伝記の執筆を許さないと遺言していたという明確な理由と遺志を主張する。
‘オチョ・リオス’で生活するうちに、一冊の著書しか残していないはずのユルスが、二冊目の著作を書き上げていたことを知ったオマー。その原稿は、キャロラインが保管しているらしい。そして、アメリカから恋人ディアドラが、オマーを手助けするため’オチョ・リオス’にやって来た。
原作は、アメリカ人作家ピーター・キャメロンの同名の小説。グント兄弟の両親がナチスドイツの迫害を逃れてドイツからアメリカへ亡命した背景、妻キャロラインもアメリカでユルスと出会い結婚している。アダムのパートナーのピートは日本人。’オチョ・リオス’に暮らす人たちにとって、この地は’故郷’ではない。平穏な日々の暮らしはあっても居心地があっているわけではない。それぞれに心の’故郷’ともいえる最終目的地を目指しだした’オチョ・リオス’の住人たち。そんな心の機微が、美しい映像と演出の中で見事に描かれていく。 【遠山清一】
監督:ジェームズ・アイヴォリー 2008年/アメリカ/117分/原題:THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION 配給:ツイン 2012年10月6日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開(映倫区分:G)