姉エルザに近寄りながらもその心情をくみ取るゾラ ©Rezo Productions
姉エルザに近寄りながらもその心情をくみ取るゾラ ©Rezo Productions

「愛について…」考えるとき、普通には家庭や職場など普通のシーンでの在り方を考えてしまう。だが、監督・脚本のレア・フェネールは刑務所での面会室を重要な場所として設定している。監督自身が、受刑者の家族の面会や手続きなどを支援する社会活動に参加していた。その経験から「刑務所の面会室は、自由な世界と閉ざされた刑務所の世界を唯一つなぐ象徴的な場所。離れ離れになった家族や男女の間には様々なドラマがあり、顔を合わせば互いの気持ちを分かち合い、笑ったり涙したり、激しい感情が交錯する活き活きした場所」とフランス映画祭でのインタビューに答えている。実生活でもさまざまな制約の中にあり、対峙して愛を語り得る場は作り出さないと得られない。その意味では、喪失、献身、疑い、赦し、再生など、さまざまな愛のカタチを3つの状況をとおして1つの面会室のシーンへと織りあげていく構成とストーリーテイラーとしての輝きに胸躍らされる。

ある土曜日のマルセイユの刑務所。面会の受付扉の前に集う人たち。その中の3人の事情から物語は始まる。
アルジェリアに住んでいたゾラ(ファリダ・ラウアジ)。5年前にフランスに移住した息子が、若者に殺害されたとの訃報が届く。なぜ殺されたのか。その真相を知りたいゾラは、マルセイユに行き犯人の若者は逮捕されるまで姉のセリーヌ(デルフィーヌ・シュイヨー)に匿われていたことを知る。ゾラは、犯人の若者に会うためにセリーヌに近づいていく。

未成年ながらもアレクサンドルに魅かれていくロール ©Rezo Productions
未成年ながらもアレクサンドルに魅かれていくロール ©Rezo Productions

16歳のロール(ポーリン・エチエンヌ)はサッカー好きな女の子。練習帰りのバスの中で、少し不良っぽい風変りなアレクサンドル(ヴァンサン・ロティエ)と出会い、恋に落ちてしまう。だが、ある日、アレクサンドルが警官に暴行し逮捕されたと彼の友人から連絡が来た。すでに収監されているが、未成年のロールは保護者か成人の付き添いが同行しないと面会できない。親に言えないロールは、献血で知り合った病院スタッフのアントワンに頼み込み、面会に通うようになる。

病院に血液を輸送する仕事をしているステファン(レダ・カティブ)。仕事はうまくいかず、借金もあり、いつもむしゃくしゃしている。母親と恋人エルザ(ディナーラ・ドルカーロワ)の関係は折り合いが悪く、エルザは出て行った。そのエルザが町で暴漢に絡まれ、ピエール(マルク・バルベ)という男性に助けられ病院にいるという。病院に駆けつけたステファンを見て、ピエールは「お前によく似た友人が刑務所にいる。一年間身代わりになってくれたら相応の礼金を支払う」と申し出る。悩むステファン。だがこの誘いかけをとおして、ステファンは存在意義のようなものについて考え始め、何かを決意する。

母親のゾラ、未成年ながら恋を知りそのことに悩み始めたロール、受刑者の身代わりに誘われたステファン。3人がそれぞれに関わった人たちの思いを受け止めながら、心に期するものを抱きながら、ある土曜日の刑務所の面会室にやってきた。
刑務所の壁に隔てられた別社会で生きる人たち。受刑者には、面会に来てくれる家族や知人との時間がどれほど必要なものか。あまり語り合うこともなく見つめ合う人たち。面会の度に愚痴を聞き口げんかする人たち。人には愛という絆が必要だということにあらためて気づかされる。 【遠山清一】

監督:レア・フェネール 2009年/フランス/120分/原題:Qu’un seul tienne et les autres suivront 配給:ビターズ・エンド 2012年12月15日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
2009年ドーヴィル映画祭最優秀第一回作品賞、同年ルイ・デリュック賞新人監督賞。2010年リュミエール賞と同年エトワール賞でポーリン・エチエンヌが新人女優賞を受賞している。

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ainituite/