©2011 Lazona S.L.U, Telecinco Cinema, Manto Films AIE
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タイトルは、旧約聖書イザヤ書57章21-22節にある「『悪者どもには平安がない』と私の神は仰せられる。」(新改訳聖書)から引用されている。強烈な真理性をストレートに表現されていて印象深い。’悪者ども’とは? 本来は正義の側であるはずの刑事か、あるいはマドリードの列車・駅舎を同時爆破しょうとするテロ集団か。2004年3月11日マドリードの3つの駅と2つの列車が同時に爆破された実際に起きた事件をモチーフに、テロ組織の犯行計画を追いながら、自らテロ組織に絡まざるを得なくなった中年刑事の心の闇がハードボイルドに描かれていく。

かつては特殊部隊で活躍したサントス(ホセ・コラルド)だが、ある事件を起こし現在は所轄の刑事として些細なもめ事の事務処理などの毎日。気持ちが腐るような毎日に、酒にも溺れていく。

この日も閉店になった店を出た後、呑み足らずにまだ入り口に明かりが点いているバーに立ち寄った。店内には客はおらず、ママらしいホステスが閉店で女の子たちも帰したばかりだと断る。それでもママとバーテンダーに絡み、店主までなだめるため下りてきた。ところが酔っている勢いからか、あっというまに店内にいた3人を射殺してしまったサントス。とっさに証拠隠滅を図り、店内に誰か残っていないか注意を払うと目撃者らしい男が逃げ去って行った。防犯カメラの映像から逃げ去った男を見つけ出し、その男の影を追い始める。

一方、3人の射殺事件を操作するレイバ刑事(フアンホ・アルテロ)ら警察では、しだいにサントス刑事への疑惑が深まっていく。陣頭指揮にあたる女性判事のチャコン(エレナ・ミケル)も正義感から疑惑のあるサントス刑事への捜査の手を緩めない。

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サントスに射殺された3人は、麻薬密売組織と関わりがあったらしい。さらに関係者をたどっていくとイスラム原理主義のテロ集団との関係していることが浮かび上がってきた。サントス刑事も単身で目撃された男を追っていくと、同じテロ集団にたどり着いた。そのテロ集団は、マドリードでの同時爆破を実行する準備を着実に進めている。その匂いをかぎ取ったサントス刑事は、日々気持ちを腐らせていた犬から獰猛な猟犬のような目に変わり、テロ集団に迫っていく。

所轄の刑事に左遷されたサントス刑事の人を寄せ付けない荒れよう。決してほめられた刑事の在り様ではない。だが、幾分かの正義感は心のどこかに残り火のようにともっているのだろうか。単身でテロ集団に挑んでいく姿は、自らの死に場所を見いだし戦場に挑むサムライのような迫力。ダーティなヒーローに一縷の共感を抱きそうになるが、タイトルからもそうすんなりうなずける作品ではない。
タイトルに引用されたイザヤ書57章は、隣国アッシリヤの軍事力に脅威を抱いていたエルサレムの住民に対して、イザヤが神の民に与えられる平安と平和のメッセージを語り神への信頼を訴える。タイトルに引用された21節の「『悪者どもには平安がない』と私の神は仰せられる。」という言葉は、神を認めず、信頼を置かない『悪者どもには平安がない』と明確に語りかけた結語。現実の悪は、蒔いている悪の実を刈る。エンターテイメントを超えて、そのメッセージが伝わってくる。 【遠山清一】

監督:エンリケ・ウルビス 2011年/スペイン/114分/映倫:R15+/原題:No habra paz para los malvados 配給:シンカ 2013年2月9日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて公開
公式サイト:http://www.akuninheion.jp

2012年ゴヤ賞(スペイン・アカデミー)主演男優賞・監督賞・作品賞・脚本賞・編集賞・音響賞の6部門でグランプリ受賞、フォトグラマス・デ・プラダ賞主演男優賞・スペイン映画賞受賞。