日本統治時代に伝えられたカジキ突きん棒漁で今も暮らしを立てているオヤウさん夫妻 (C)「台湾萬歳」マクザム/太秦

かつて台湾が“日本”だった時代がある。日清戦争後に締結された下関条約で清から日本に割譲された1895年(明治28)から第二次世界大戦で日本が敗戦した1945年(昭和20)までの51年間、日本語教育を受けた日本語世代が生まれ日本からの移民と共に、農業・漁業・工業などに様々な文化・技能が導入された。その日本語世代の台湾人から教わったカジキ漁を今も受け継でいるアミ族の夫婦がいる。台湾伝統の狩猟を守るブヌン族の男たち。親日の親しみと観光人気の奥に息づく“変わらない台湾”の文化に生きる姿が、かつての日本が尊んでいた存在のたしかさと心意気が伝わってくる。

【あらすじ】
台湾の南東部にある台東縣成功鎮は人口約1万5千人。アミ族、ブヌン族、タオ族など原住民族と漢民族系の人たちがほぼ半数ずつ暮らしている。日本語世代の張旺仔(85歳)さんが、畑仕事をしながら流ちょうな日本語でバナナのとり方や生い立ちを語る。かつては日本の伝統漁法の突きん棒漁のカジキ漁船の船長だったが、病気で49歳のときに引退し陸に上がった。だが、根が漁師の張さんは、毎日、漁船が帰港するころになると港に行き、魚が水揚げされる様子を見るのがなによりの楽しみだ。

張さんの兄の漁船でカジキ突きん棒漁を修業したアミ族のオヤウ(許功賜、69歳)さんは、妻のオヤウ・アコ(潘春連、62 歳)さんと今も突きん棒漁漁船でカジキを獲る。張さんが帰宅するとオヤウさんから獲った魚のおすそ分けが置いてあった。さっそく手際よく捌き、刺身を酒井監督らに振る舞っていると台所で料理している音がする。張さんの妻・李典子(77歳、台湾は夫婦別姓)さんが下ごしらえした魚を見てすぐ料理に取り掛かっていた。

子どもたちと歌うカトゥさん (C)「台湾萬歳」マクザム/太秦

台東縣延平郷に住む中学校の歴史教師&シンガーソングライターのカトゥ(柯俊雄、41歳)さんはブヌン族の人。同じブヌン族のダフ(胡榮茂、41歳)さんと共に森に入り、先祖に祈りと感謝を捧げながら伝統の狩猟を行なっている。カトゥさんは、日本語世代のムラス・タキルダン(王古夏妹、89歳)さんの所へ酒井監督らを案内する。ムラスさんの日本名は「きよこ」。日本統治時代にもともと住んでいた高地の村から強制的に今の場所へ移住させられた。その後、一度もかつての村に帰ったことがないムラスさんのは、自分たちの土地を守ってほしいと訴える…。

【見どころ・エピソード】
台湾の歴史は、文字通り激動の時代を跡付けてきた。近現代を見ても、日本統治時代の後、蒋介石の中国国民党が台湾を統治し、その暴政に怒った台湾人による「二二八事件」(1947年)が勃発し、台湾人の指導者層や知識人はじめ2万数千人が殺害・処刑された。「二二八事件」後の1949年から1987年まで国民政党は厳しい戒厳令を敷き、反体制活動に対して言論弾圧を行なった。酒井監督は、その激動の時代をとおってきた台湾の姿を「台湾人生」(2009年)、「台湾アイデンティティ」(2013年)そして本作「台湾萬歳」の3部作で描いている。前2作品が“変わりゆく台湾”に視点を置いて描かれているのに対して、本作では時代がどのように変わろうとも、人々の暮らし、生活の中核にある「祈り」、「命への畏敬と感謝」「家族」など“変わらない台湾”の姿が描かれている。日本語、台湾語、中国語の言語を強制されて、変わらない台湾での生き様。その土地に在ること、生かされていることの素晴らしい芳香を感じさせてくれる。 【遠山清一】

監督:酒井充子 2017年/日本/93分/ 配給:太秦 2017年7月22日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://taiwan-banzai.com
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