映画「ブランカとギター弾き」--「お母さんを買って幸せになろう」とした少女と盲人のギター弾き
フィリピンのスラムに暮らすストリート・チルドレンの目線から、生きていくための幸せとは何かを語りかけている心温まる物語。とくに経済成長と拡張のなかでなんでもお金に換算して価値を計りがちな日本人に、経済的価値では計れない“幸せ”とか“希望”の大切さを思い起こさせられる。何かに行き詰っているような自分の殻を一枚剥いてくれる後味の良さがいつまでも心に残る。
【あらすじ】
フィリピンのスラム街で物乞いや窃盗をしながら暮らしている孤児の少女ブランカ(サイデル・ガブテロ)。ある日、テレビで孤児を擁護している施設の子を養子に迎えた有名女優のニュースを見た。テレビの持ち主の小父さんが「俺に金があればあの女を買いたいなぁ」と言うのを聞き、ブランカは「私もお母さんを買って幸せになる!」と決心する。
仲間と窃盗してお金を貯めることに懸命なブランカ。だが、儲けたお金の分配で恨まれ、寝泊まりしていた段ボールハウスは壊され、すべてを失ってしまった。途方に暮れていると、盲目のストリートミュージシャンのピーター(ピーター・ミラリ)が弾くギターが聞こえてきた。ブランカは、流れ者のピーターに頼み込み、いっしょに旅に出る。
町に着くと、「3万ペソで母親を買います」と手作りのポスターを街角に張るブランカ。「母親は買えないよ」とピーターがたしなめても、「大人は子どもを買うのに、子どもが大人を買ってなぜ悪い」と言って納得しない。そして、窃盗をしてはせっせとお金を貯めこんでいく。
そんなブランカに転機が来る。ピーターが声の良いブランカに歌を教え、二人で町で演奏すると道行く人たちを引き付けた。それに目を付けたライブ・ハウスのオーナーに誘われて毎晩ステージで演奏する仕事にも就けた。ライブ・レストランでのステージは評判になり、オーナーの評価もよく順調に進みだしたが、その成功を妬んだ従業員に店の売り上げを盗んだと濡れ衣を被せられてしまう。店を追い出され、また一文無しになった二人。だが、ピーターに仕事をして暮らしを立てていこくとを教えられたブランカは、それまでとは異なる心の満たしを味わい始めていた…。
【見どころ・エピソード】
日本人では初めてベネツィア・ビエンナーレ&ベネチア国際映画祭の全額出資を得て、本作が第一回長編作品となったを盗った長谷井宏紀監督。若い時にフィリピンのスモーキー・マウンテンなどスラム街に通っていたとき、当時の子どもたちと「ここで映画を撮る」と約束した。その経験と約束が、この物語のリアリティとファンタスティックな原点になっている。子どもたちも、ピーターも素のままスラム街で暮らしている。ただ、演技力が求められるブランカ役は、イタリアのプロデューサーがYou Tube動画で紹介されたサイデル・ガブテロが務めている。ラストシーンでブランカがたどり着いた幸せは、素晴らしい演技最高の表情で観る者の心を動かす。【遠山清一】
監督:長谷井宏紀 2015年/イタリア/タガログ語/77分/原題:BLANKA 配給:トランスフォーマー 2017年7月29日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://transformer.co.jp/m/blanka/
Facebook https://www.facebook.com/blanka.jp
本紙インタビュー記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/?p=16332
*AWARD*
2015年:第72回ベネチア国際映画祭でソッリーゾ・ディベルソ賞、マジックランタン賞受賞。
**本作は、目が「見えない」「見えにくい」方のためにUDCast方式による音声ガイド付き上映が可能です。UDCast方式とは、いつでもどこでも映画が楽しめるよう、携帯機器(スマートフォン・タブレット端末)とイヤホンを使って音声ガイド付きで映画鑑賞できるシステム。音声ガイドでのブランカ役には声優の新田恵海さん、ピーター役を柴田秀勝さんが務めている。