無実を言い続けるルーカス。町のほとんどの家族が出席するクリスマス礼拝にも、やましさのない行為として出席したが。 ©2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.
無実を言い続けるルーカス。町のほとんどの家族が出席するクリスマス礼拝にも、やましさのない行為として出席したが。 ©2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.

ここで物語られているようなことは、自分の日常にいつ起こっても不思議ではない。その防ぎようのない怖さをシリアスに描いていく。

6歳の幼稚園の女児にやさしく断った行為が、幼女の柔らかな心を傷つけ、幼女がついた小さな嘘が大きな冤罪へと発展していく。「子どもと酔っぱらいは嘘をつかない」という諺が、しっかり息づいているデンマークの小さな町。証明する術のない身の潔白を言えば言うほどエスカレートしていく町の人々の決めつけと憎悪は、集団ヒステリーと化していく。それでも、自らの潔白とプライドは守らなければ、自らの心が死んでいく。その不断の勇気に強く教えられる。

妻と離婚したルーカス(マッツ・ミケルセン)は、息子マルクス(ラセ・フォーゲルストラム)とも別居させられ隔週の週末にしか会えない。勤めていた小学校は廃校になり、不安定だった生活も幼稚園教諭に就職できようやく落ち着いてきたところだ。男性教諭が少ない幼稚園では、男の子たちにとって格好の体当たり目標で子どもたちとのコミュニケーションも順調だ。

だが、ある日。ルーカスの親友テオ(トマス・ボー・ラーセン)の娘クララ(アニカ・ビタコプ)から自分あてのプレゼントが置かれていた。職場での立場をわきまえているルーカスは、クララの親しげな行為やプレゼントをやんわりと断った。その日の夕方。校長室の机に隠れていたクララは、女性校長にルーカスから性器を見せられる性的な嫌がらせを受けたと嘘をつく。

6歳の幼女の突然の告白に動揺する校長。翌日には、事情も告げずルーカスに自宅待機を申し渡し、専門家にクララの事情調査を依頼する。専門家の質問に、ただうなづくだけのクララ。校長は、出来事を警察に届け、園児の保護者らを招いて最近同様の出来事を子どもたちが受けていないかを確かめようとする。

校長から事情を聞かされ戸惑うルーカス。親友テオ夫妻に身の潔白を弁明しに行くが、聞き入れてはもらえない。噂は広がり、ありもしない被害が警察の事情聴取で積み上げられていく。裁判以前に、町の人たちの決めつけとあからさまな憎悪の感情は、ルーカスへの食料の不売や愛犬の殺害へとエスカレートしていく。それは、クララ自身が「嘘だった」と告げたところで、大人たちの耳にはもう届かない。

離婚のため母方に居た息子マルクスが心配して訪ねてきた。父親の無実を信じて。 ©2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.
離婚のため母方に居た息子マルクスが心配して訪ねてきた。父親の無実を信じて。 ©2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International Sweden.

町の人たちが大勢集まるクリスマス礼拝。自身の潔白を神の前で証明するかのように、ルーカスも教会の中に進み出て席に着いた。会衆の刺すような視線を浴びながら。

情況を理解させてくれる前段の展開は、スピーディで分かりやすい。その後、噂が広まってからの日々にじっくりと時間をかける演出。ルーカス自身の潔白と自尊心を捨てることのできない苦悩、親友家族や町の人たちとの重苦しくも緊迫した空気感、不売行為や次々に起こる嫌がらせなど、サスペンスの味付け十分に展開していく。カンヌ国際映画祭の主演男優賞を獲得したマッツ・ミケルセンの演技のすばらしさ。トマス・ビンターベア監督と脚本家トビアス・リンホルムのストーリー・テイリングの絶妙さに感服させられる。

ルーカスの逞しさを感じさせる邦題だが、原題の’Jagten’は「狩猟」を意味する言葉。実際、息子が青年に成長した証しとして狩猟銃を贈るセレモニーが効果的に挿入されているし、集団ヒステリーの中で次第に追い囲まれていくようなルーカスの姿を彷彿とさせられる。そして、何よりもラストシーンの驚きに、この原題の意味が深く胸に焼き付けられる。 【遠山清一】

監督:トマス・ビンターベア 2012年/デンマーク/115分/映倫:R-15+/原題:Jagten 配給:キノフィルムズ 2013年3月16日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。
公式サイト:http://itsuwarinaki-movie.com

第65回カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞、第25回ヨーロッパ映画賞脚本賞受賞