英英(中央)らが暮らすシーヤンタン村は、標高3200mの高地にある ©ALBUM Productions, Chinese Shadows
英英(中央)らが暮らすシーヤンタン村は、標高3200mの高地にある ©ALBUM Productions, Chinese Shadows

村の名前は洗羊塘(シーヤンタン)。中国の西南部、標高3200メートルの雲南地方山岳に位置する80戸ほどの小さな村だ。中国でも最貧困と言われ、電気が通じたのは2007年になってようやくのこと。生活用水はポンプ式の井戸水と小さな川で、灌漑設備もない。
その村で暮らす長女の英英(インイン)が10歳、次女・珍珍(チェンチェン)6歳、三女・粉粉(フェンフェン)4歳の3人姉妹。父親は、町へ出稼ぎに出かけていていない。母親は、数年前に家族を捨てて家を出たまま連絡が取れない。

両親が居ない家を英英が母親代わりになって妹たちの面倒をみている。土壁とわらぶき屋根の家は湿っぽく、寝床も長く変えていない。珍珍の破れた長靴の中に溜まった土団子を、英英が棒切れを使って掻き出す。3人とも長いこと着た切り雀。父親が出稼ぎに行って以来身体を洗っていない粉粉は、衣シラミを飼っているチャンピョン。そのシラミも英英が根気よく潰しているが追いつくものでもない。近くに叔母の家があり、祖父もいて、英英たちは燃料になる乾燥した馬糞運びや家畜のブタ、羊たちの世話をしながらいっしょに朝食をもらうなどして生活をやりくりしている。あとは、作り置いておく煮ジャガイモを食べて空腹を満たす。

ある日、父親が村に帰ってきた。最初に見つけた珍珍、その声に粉粉もすぐ後を追いかける。久しぶりに、熱いお湯を使って身体の汚れを洗ってもらい満足そうな3姉妹。祖父は、子どもたちのことを考えてか、2千元(約3万円)ぐらい結納金を出して新しい嫁を探してはどうかと進言する。だが、「そのことの問題だけでもないから。」と気乗りしない様子の父親。結局、子どもたちを連れて町に出稼ぎに行く決心をする。だが、生活費の高い町では親子4人で暮らせる収入は稼げない。しかたなく、小学校の学費がかかる英英独りを村に残して父親と珍珍、粉粉の3人は、バスに乗って町へ下りて行った。

©ALBUM Productions, Chinese Shadows
©ALBUM Productions, Chinese Shadows

6歳の珍珍は、何でもできる英英に対していつも「やだ!」と反発する。さながら自分の存在、意志を認めさせたがる反抗期の体だ。そのためか、行動ははつらつで屈託なく、よくおしゃべりする。粉粉も、駄々をこねたり、ときどき見せるあどけない笑顔がたまらなく可愛い。だが、英英には少女らしい笑顔がほとんど見られない。朝、薪を起こし、この村で唯一栽培できるジャガイモを煮て、お腹が空いたときの食糧に作り置いておく。家畜たちの世話を手伝い、妹たちの面倒を見る。しっかり働いている英英。遊び道具もない寒村で、少女らしい姿が映し出されるのは、石けりのようなスッテプを踏んでいる時と小学校と自宅で勉強している時ぐらいか。

ナレーションはなく、テロップも必要最小限でほとんど説明的な映像もない。たんたん描かれているのは、と貧しい村で妹たちと暮らす英英。豚や羊たちを放牧している合間に黙して眺める山々や雲の向こう。英英の瞳と表情には、しっかり’命を生きる責任’が表れていて、人間の尊厳さが漂っている。

2009年に村で英英たち3姉妹から煮ジャガイモを振る舞われたのが、ワン・ビン監督との出会いだったという。それから時折、村を訪ねて撮りためた撮影は延べ日数20日間。政治的なメッセージ性を一切捨てて、ただ貧しい村での生活の営みが映される。その貧しい様子からの現実的な意味は、見る側に委ねられるだけ。
ワン・ビン監督は、3姉妹の日々のドキュメントを2時間半の日記文学に仕上げた。 【遠山清一】

監督:ワン・ビン(王 兵) 2012年/フランス=香港/153分/英題:Three Sisters 配給:ムヴィオラ 2013年5月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.moviola.jp/sanshimai/

2012年第69回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリ、第34回ナント三大陸映画祭グランプリ&観客賞受賞作品、第9回ドバイ国際映画祭アジア・アフリカドキュメンタリー部門最優秀監督賞、リスボン国際ドキュメンタリー映画祭グランプリ受賞作品。