Movie「ひろしま 石内都・遺されたものたち」――贖罪と弔い 80分の時空間
Movie:「ひろしま 石内都・遺されたものたち」――贖罪と弔い 80分の時空間(リンダ・ホーグランド監督インタビュー)
7月20日から8月16日までのおよそ1か月間、東京千代田区の岩波ホールで’ひろしま’をテーマにした2本のドキュメンタリー映画が緊急上映される。その1作品が「ひろしま 石内都・遺されたものたち」。写真家の石内都さんが、広島平和記念資料館に保存されている衣類や靴、人形などの品々を撮影した作品48点をバンクーバー市で展示した写真展でのドキュメンタリーだ。被爆当時の物言わぬ遺留品たちに何を語らせたかったのか。リンダ・ホーグランド監督にこの作品の意図を聞いた。
日本人の感性を受け止めてくれているように語る流ちょうな日本語。山口と愛媛で開拓伝道していた宣教師の娘として日本の小学校・中学校を卒業した。ドキュメンタリー映画監督でもあるが、黒沢明や宮崎駿作品など字幕翻訳家としての評価も高い。
これからの時代へと
語り継ぐ模索の一つ
最初に原爆投下された’ひろしま’をテーマにした作品だが、当時の破壊された後のモノクロ写真や証言者たちは一切登場しない。それは、この作品を撮る前に自ら決めていたことの一つだという。
「もう、過去のモノクロの悲惨な写真からではなく、石内都さんが被爆した遺留品をアートにして撮った、美から’ひろしま’に入るという全く新しい切り口と出合った」。
溺れている者を見たらまず助ける。海の男エルネストには当然の行為だが、法律は難民・不法移民問題として扱い、島の人たちは島のイメージダウンにつながりかねないと疎んじる。島は、漁業ではなく観光客の遊覧船や貸室で暮らす時代になっていた。
「それは、地獄になった1分前が見えてくるということ。戦争中だったけれど、モンペ姿の内側にきれいなブラウスを着ておしゃれをしていた。そういう風に見えてくると、私もこういうドレスを着ていたかも知れないし、明日核戦争が起きたら、こういうドレスを着ているかもしれない。要するに、原爆投下1分前と今日、もしかしたら明日の私というふうな、私には石内さんの写真が両方につながる特別な入口のように見えた。それは、その衣服に宿された一種のスピリットのようなものが見えるから、生きていた人間とそして私というふうに素直につながるんじゃないのかしら」。
映画は、学芸員の下村麻理子さんの協力を得ながら遺留品を撮影する石内さんの取り組みと、カナダ・バンクーバー市ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館での写真展の様子がルポされている。
「ホロコーストもそうですが、原爆の語り部の証言者が毎年亡くなっている世代ですので、石内さんや、(遺留品にまつわる)悲惨な証言を書き留めていく下村さんのようなこれからの語り部がどのような形で語り継いで行かれるのか。この作品もその模索の一つという思いもあります」。
まだ弔われていない
人々へのレクイエム
写真展には、カナダ人だけでなくメキシコ人、韓国人や日本からの観光客、修学旅行でたまたま立ち寄った200人の女子高生など様々な国の人たちが訪れた。遺留品を使っていた人の面影が石内さんにふとよぎった時、シャッターが切られた。その面影なのか’声’なのか、写真を見て感じた思いを個人的に、主観的にそれぞれが語っている。
遺留品の中には誰に使われていたのか分からないものもある。「爆心地で被爆した方や、一家全員亡くなられて未だに弔われていない方もいるでしょう。この作品は、そうした方々へのレクイエムというか、告別式というか。原爆から68年、そろそろ送ってあげられる時間と空間の80分間です。原爆を落とした私の国は贖罪していないけれど、限りなくアメリカ人の監督が、’ひろしま’と贖罪というテーマを目指したら(アートと美を入り口にした)こういう作品になりました」
08年に映画「TOKKO/特攻」(リサ・モリモト監督)をプロデュースし、自身が監督した作品は10年の「ANPO」(安保)に次いで本作品が2本目。戦争を見つめる次の計画はあるのだろうか。「リンダの太平洋戦争に関しては、この三部作で終戦を迎えました。全員負けでね(笑)。戦争は、みんな負けるんですよね。アメリカは勝ったのではなく、終わりなき軍事依存への開幕でした。今や、経済的には軍事中毒で、戦争なしにはやっていけない。勝利したというのは錯覚です」と真摯に見つめる。 【遠山清一】
監督:リンダ・ホーグランド 2012年/日本=アメリカ/80分/原題:Things Left Behind/ 配給:NHKエンタープライズ 2013年7月20日(土)―8月16日(金)岩波ホールにて「ヒロシマナガサキ WHITE LIGHT/BLACK RAIN」と緊急同時上映、ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.thingsleftbehind.jp
第13回東京フィルメックス招待作品、第31回バンクーバー国際映画祭正式出品作品。