冷酷なやり方で借金を取り立てるガンドの前に、母だと名乗るミソン。 ©2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.
冷酷なやり方で借金を取り立てるガンドの前に、母だと名乗るミソン。 ©2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.

人間の業(ごう)というか、どうしようもなく逃れることのかなわない恨(はん)の哀しを、シリアスなストーリと強烈な映像で象徴的に描くキム・ギドク監督。ミケランジェロの傑作(サン・ピトロ大聖堂の)「ピエタ」像を彷彿とさせるポスターからも伺われるように、ギドク監督は、十字架刑に処せられたイエス・キリストの亡骸を膝に抱く母マリアの慈悲(ピエタ)の姿にこの物語を強く触発されたという。

本質的なメッセージ性をダイナミックに表現するためか、男性的な視点でのストーリ展開が印象的なギドク監督。だが、’ピエタ’という宗教性の色濃さと母性の慈愛の奥深さをみつめた本作は、母の存在を認識させられ、その愛が壊れることの怖さと’罪’の深さから’赦されたい’という’贖罪’への渇きが響いてくる。

小さな町工場が立ち並ぶソウルの清渓川(チョンゲチョン)工業地域。大企業の高層ビルが建設されるための再開発が進み、町工場の景気は下降していく。その町工場の一つ。車いすに座る30代の事業主が首にクレーンの鎖を巻き、上昇のスイッチを入れて自死する。工場の運営のため高利な町金融から借金した利子が元金の10倍になり、無理やり障がいを負わされ、労災保険で返済させられた。だが、働けなくなった身体と先行きを悲観しての自死だった。

町金融の配下で借金の取り立てをしている男の名はガンド(イ・ジョンジン)。生まれてから30年間、親の顔も知らず天涯孤独に生きてきた。この日も、フンチョル夫妻の工場に借金を取り立てに来て、右腕を機械に巻き込ませる。一部の返金ではなく、傷害を負わせいっぺんにカタを付ける冷酷な取り立てに、恨みを買って生きている男。

親の顔も知らずに天涯孤独に生きてきたガンドだが… ©2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.
親の顔も知らずに天涯孤独に生きてきたガンドだが… ©2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.

そのガンドに、一人の中年女ミソン(チョ・ミンス)が近づいてきた。ガンドが転んだ拍子に掴んでいた鶏を逃がしてしいまい、こともなげに捕まえたミソンはガンドに無言で返す。そのまま家までついてきた。追い返されても、夜まで道路からガンドの部屋を見上げている。
借金の取り立てで障がい者になった誰かの身内か?。だが、違った。翌日、取り立てに出かけようとするガンドに、路地にひざまづいて「あなたを捨てて、ごめんなさい」といきなり謝罪し、母親だと名乗ったミソン。突然のことに憤りを顕わにするガンド。それでもひるまずに、借金の取り立て先にまでついていく。

その日の取り立て先は、母親の面倒を見ながら細々と仕事をこなしているテスン。さすがに母親の目の前ではいつも通りなこともできず、取り壊し途中のビルから突き落としたうえ、足の骨を蹴り落として折ってしまう。立ち去ろうとするガンドに「おまえは地獄で焼け死ね!」と毒づくテスンの足を、ミソンは踏みつけて「私の息子に向かって生意気を言うな!」と言い返す。

母親だと名乗ってまとわりつくミソンを邪険にしながらも、ガンドの心は大きく揺れ動いていく。

愛情を知らないガンドに「私があなたを捨てたから、こんな酷いことをする人間に育ってしまった。私が悪い。赦してほしい」。必死に謝罪するミソン。いぶかりながらも、やがて母親として受け入れたガンド。だが、ガンドに恨みをもつ誰かがミソンに危害を加えようとしている。ガンドには今まで味わったことのない、大切なものと失うかもしれない恐怖心に襲われる。そして、自分が行ってきたことの真の恐ろしさを思い知らされる。

‘赦されたい’という魂の渇きは、自ら贖うことが出来るものなのだろうか。ガンドの凄惨な状況を想起させながら、夜明けのしらむ自動車道を走る車。’赦し’の渇望のようなそのラストシーンの美しさは、さまざまな解釈と余韻を見る者の心に投げかけてくる。 【遠山清一】

監督:キム・ギドク 2012年/韓国/104分/映倫:R15+/英題:Pieta 配給:クレストインターナショナル 2013年6月15日(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。
公式サイト:http://nagekinopieta.com

2012年第69回ベネチア国際映画祭獅子賞受賞、第33回青龍賞最優秀作品賞受賞、韓国映画評論家協会賞最優秀作品賞・監督賞・主演女優賞・国際評論家連盟賞受賞。2013年第85回アカデミー賞外国語映画賞韓国代表作品 。