映画「リヴ&イングマール ある愛の風景」――監督と女優の“愛と信頼”のドキュメンタリードラマ
「冬の光」(1963年)、「秋のソナタ」(1978年)など、人が生きる意味を映画美をとおして問いつづけた20世紀のスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督が、2007年に89年の生涯を閉じた。ウディ・アレンなど著名な映画人らのコメントが報じられるなか、イングマールの長年のパートナーだったノルウェー人女優リヴ・ウルマンのコメントは報じられなかった。そのことに気付いた若手の映画作家デーラジ・アコルカー。その前年にウルマンの自伝『チェンジング』を読破していたアコルカーは、リヴに手紙を書いて送ったことから、インタビューと記録フィルムによるドキュメンタリーで、監督と女優の愛と友情の物語への一歩が踏み出された。
アコルカー監督は、生前のイングマールとは面識はない。リヴともこの作品の企画からのコンタクトだ。その新鮮さが、偉大な監督と女優の偉業ドキュメンタリーではなく、25歳の年齢差を超え互いにアーティストとして強さと脆さを持つ人間同士の愛の物語として作品を練り上げている。
当時の撮影現場や映画作品のシーン、未公開フィルムにリブのインタビューとナレーションが挿入され、<恋><孤独><怒り><痛み><渇望><友情>の6つのセクションを流れていく中で、イングマールとリヴの性格や人間像が浮き彫りになってくる。
スウェーデンのフォール島で撮影された「仮面/ペルソナ」で出会った監督と若い女優。撮影が終わるとイングマールは、ノルウェーに帰国したリヴの後を追う。互いに妻と夫のある二人だが、その問題を互いに乗り越えることを決意して、フォール島に家を建て二人の生活をスタートさせる。ここで2本の作品を撮り、やがて女の子を授かった。その幸せが、二人の心の距離を生むきっかけになり、互いの感情は激しくぶつかり合い、別離へ。
その二人が、紆余曲折を経ても切れることのなかった’痛いほどの絆’。それは、監督と女優という芸術家同士の激しい二人の世界での愛憎を超えて、人間同士の深くて強い愛と信頼の絆のように、観る者の心に染み込んでくる。
結婚による幸福と苦労の分かち合いからは、このドキュメンタリーにまとめられたドラマのような愛と信頼を築くことはできないものだろうか。いや、そうではないだろう。リヴのラストシーンの表情と温もりが、そう思わせてくれる。 【遠山清一】
監督・脚本:デーラジ・アコルカー 2012年/ノルウェー=スウェーデン=イギリス=チェコ=インド/84分/映倫:G/原題:Liv & Ingmar 配給:ブロードメディア・スタジオ 2013年12月7日(土)ユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.livingmar.com
Facebook:https://www.facebook.com/livingmar.jp
2012年第50回ニューヨーク映画祭正式出品作品、第40回ノルウェー国際映画祭オープニング上映作品。