病院で取り違いの事情を聞く、イスラエルとアラブそれぞれの両親。 ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films2013
病院で取り違いの事情を聞く、イスラエルとアラブそれぞれの両親。 ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films2013

イスラエルとアラブ難民との紛争状態が続くパレスチナ問題もしくは中東問題は、日本人にとって馴染みにくい国際問題の一つだろう。道のりの長い民族と歴史的背景を持つこの紛争を、イスラエル人とアラブ人二つの家族間に起きた息子の取り違いという悲劇的な出来事を骨格に描いていく。

‘先祖からの土地’に絡む複雑さに、互いに’敵’として教えられ、認識してきた二人の息子とその家族。親心を奈落に突き落とすようなむごい設定だが、自分のアイデンティティとは、家族とは、真の信頼とはを観る者に問いかけてくる。重いテーマだが、重苦しい感情に陥らせないのは、’家族’の絆を芯に慈愛と希望への光を撚り合わせていく脚本と演出のみごとさ。スタッフとキャストらが思いを一つにして作り上げた作品に、素直に心が動かされる。

18歳の息子ヨセフ(ジュール・シトリュク)の兵役検査の結果、母親で女医のオリット(エマニュエル・ドゥヴォス)とイスラエル軍大佐の父アロン(パスカル・エルベ)との子どもではないことが判明する。事実確認をしていくうち、出産した病院で同じころに生まれたアラブ人女性の子どもと取り替えられたのではとの疑惑が持ち上がる。

オリットとアロンは、取り違えられた相手側の母親ライラ(アリーン・オマリ)と夫のサイード(ハリファ・ナトゥール)といっしょに病院で説明を受ける。爆撃警報の緊急事態の中で起きた不可抗力的な出来事。

取り違えられたヨセフとヤシンには、複雑ななかにも互いに信頼と友情が芽生えていく。 ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films
取り違えられたヨセフとヤシンには、複雑ななかにも互いに信頼と友情が芽生えていく。 ©Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films

アラブ人と判明したため兵役に就けなくなったヨセフには、当然この事実は知らされる。軍人の父親とは異なりミュージシャン志望のヨセフだが、割礼をうけ成人として認知されるバル・ミツワの祝福も受けたヨセフだが、ユダヤ教徒としては認められなくなったことのショック。18年育ててきたオリットには、それでもヨセフは息子であり家族なのだ。 その母親の想いは、アラブ人のライラも同じ。父親のサイードは現実を受け止めきれず、一族との対応などに戸惑いといら立ちを隠せない。そんな折、フランスに留学していた息子のヤシン(マハディ・ダハビ)が休暇で我が家に戻ってきた。ヤシンに事実を隠そうとするサイードに、正直に告げることを迫るライラ。両親の雰囲気の変化に気づき、事実を聞いたヤシンと兄のビラル(マフムード・シャラビ)。ヤシンは戸惑いながらも事実を受け止め、生みの親オリットとアロンそしてのヨセフとも会ってみたいという気持ちを持ち始める。だが、優秀な弟に慈愛を持って接していたビラルは、ユダヤ人としてのヤシンに憎悪の感情をあからさまにしていく。

同じアブラハムを祖先の父に持つ異母兄弟の二つの民族。ヨセフとヤシンの二人が追い込まれた必然的出会いは、紛争最中にある互いの民族に真の友人見いだす契機とみることもできるだろう。ラストシーンで彼ら二人が眺める風景に、遠い日本に住む筆者は想いを同じにして見つめることは難しい。日本に伝わってくるニュースは、イスラエルの町々でのテロ事件であり、パレスチナへの爆撃などの印象を強く記憶される出来事が多い。

敵とする関係の異母兄弟の末裔に、子どもの取り違いから出会った二つの家族。親子の関係に’血のつながり’は当然のこととして愛情と信頼の絆を紡いでいく。だが、たとえ’血のつながり’という絆がなくとも、家族という絆を愛情で慈しみ、信頼を強めて撚り合わせていくことはできる。家族は、ともに希望へ向かって励ましていく人間の絆。血族を越えて描かれていく’家族’と慈愛への世界観。本作には、その希望へのメッセージが一条の光として射し込んで来る。 【遠山清一】

監督:ロレーヌ・レヴィ 2012年/フランス/フランス語、ヘブライ語、アラビア語、英語/101分/原題:Le fils de l’Autre、英題:The Other Son 配給:ムヴィオラ 2013年10月19日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.moviola.jp/son/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画もうひとりの息子/146579238876055

2012年第25回東京国際映画祭東京サクラグランプリ&監督賞受賞作品。