2017年09月17日号 08面

 第18回シンポジウム「地方伝道を考える」(北関東神学研修センター主催、仙台バプテスト神学校共催)が8月21、22日、仙台市の仙台バプテスト神学校で開催された。テーマは「『東日本大震災と教会−社会的責任と教会設立・形成へ−)」。同シンポは2011年の震災直後にも仙台で開催された。6年後の現在の課題について改めて議論が交わされた。【高橋良知

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 同シンポ代表の小野弘氏(ホーリネス・相川キリスト教会牧師)は、「20年前に佐渡島で開拓を始めて、常に自らの弱さに直面したが、パウロが自らの『とげ』について語るⅡコリント12章7節に励まされた。人々の目には目立たなくでも、神の目にとっては、地方伝道者は目立つ存在。神の逆転劇が示される」と語った。

 開会礼拝は秋山善久氏(同盟基督・仙台のぞみ教会)。仙台キリスト教連合の働きから始まった震災支援ネットワーク「東北ヘルプ」の理事を務める。震災から6年半が過ぎ、「祈りが問われる」として、ネヘミヤの祈りを紹介した。「ネヘミヤが城壁再建を呼びかけるまでに4か月を要した。工事自体は52日だったので、祈った期間は倍以上」と指摘した。

 ネヘミヤの祈りの中に、先祖だけでなく、「私」が主語になっていることに注目し、「『なぜこのような震災が起きたのか』という重要な問いに『私』が位置づけられると、責任ある方向性をもつ」と述べた。

 震災支援について、「『復興』を目標とすれば限界がある。失われたものがあるからだ。だが元通りになっても、従来から抱えていた問題がある。復興の中で信仰の側面が同時に働くことが大事ではないか。各教会が、最初の祝福の約束の確かさに召されて復興に携われたら幸い」と語った。

教会のない地域での教会形成

 教会形成については、宮城宣教ネットワーク代表の大友幸一氏(保守バプ・塩釜聖書バプテスト教会牧師)は、震災以前から、初代教会を参考にした「家の教会」、また社会奉仕と伝道を両輪にとらえた宣教論を学んでいたことを報告。アメイジング・グレイス・ネットワーク代表の岸浪市夫氏(保守バプ・イエスキリスト栗原聖書バプテスト教会伝道師)も教会から遠い漁村での活動を通して、少人数の「家の教会」を多数形成する方法に活路を見いだした。支援では「福音の押しつけ」には注意し、見返りを求めない与える愛の奉仕を重視した。

 岩手県は沿岸部に教会が少なかった。3・11岩手教会ネットワーク事務局の佐々木真輝氏(保守バプ・北上聖書バプテスト教会牧師)は、歴史から、沿岸部への宣教がたえず試みられたこと、大津波などの災害支援に教会が取り組んでいたことを明らかにした。

 社会的責任ついては、伝道、信徒数拡大の手段となることには注意した。戦時に教会が社会に同調した歴史の教訓も踏まえ、「福音を証明するために社会的責任を果たすのではなく、この世に遣わされた教会・クリスチャンとして、福音に生き、仕えるときに、福音が真実であることは証しされるのではないか」と語った。

因習・習俗の課題

 良き業・宣証共同体プロジェクト21(YSP21)の中澤竜生氏(聖協団仙台宣教センター牧師)が関わる宮城県本吉郡南三陸町には、教会がなかった。「クリスチャンの良い働きは認められた。しかし生活の中に切っても切り離せない因習がある。ちゃんと信仰が理解されないと信じてもすぐ離れてしまう。求道者については、YSP21で情報を共有し、皆で関わるようにしている」と話した。

 地域の要望を受けて12年にはクリスチャン・センターを設立した。だが同センターに地域から行く人と行かない人の間で分断が生じるなどの課題が発生し、約1年で活動を停止し、その後センターを閉鎖した。しかし地域の求めで、集会所で催しをするなど活動が継続している。

 「長い歴史の中でつくられた地域の習俗があり、キリスト教は、それらの破壊者とみられる。南三陸という限られた地域では、1つの教会の失敗がすべての教会の責任になる。教会も互いに知り合い協力し合わないといけない。数十年かけて腰をすえて取り組む問題となる。働きの次世代への継承が重要」と語った。

崩壊したコミュニティーを再形成

 石巻ネットワークの阿部一氏(石巻祈りの家代表)の支援した地域では、震災前から都市化の影響で、隣人どうしが互いを知らない状況があった。そこで数軒ごとに班を作り、支援の連絡ができる仕組みをつくった。またイベントを催して、町内で互いを知り合う機会も設けた。物資を提供するだけではなく、支援金を利用して地元の再開した商店から必要な物資を購入することを通して、地域の被災者と店舗の両方を援助する方法をとった。

 中澤氏は、自治会のリーダーらと関係を深めている。そのとき自治会や地域のグループに公平に関わるよう配慮している。「家が残った高台の人、津波で家が流された平地の人の間に分断がある。家が残った人は引け目を感じているが、『家が残ったからこそ力を発揮できる。家がない地域の人々とも一緒に働いていこう』と励ましている。平和作りの証しによって、よい福音を伝えることができれば」と語った。

 国際的な観点もあった。趙泳相氏(石巻オアシス教会宣教師)は、震災後、在日韓国宣教師総連合会副会長として、茨城から岩手にかけての沿岸各県で被災した韓国人牧師、宣教師の安否を訪ねた経験を語った。会堂被害や新会堂建築、原発事故の影響による帰国、転任、人材不足、牧師自身の疲労などの状況を話した。

 オペレーション・モービライゼーション(OM)日本代表のスティーブン・スミスドルフ氏は、16年に全世界で更新された新たなミッションステートメント「私達の願いは、最も福音が伝えられていない人々の間で、イエスに従うコミュニティが形作られることを紹介」。世界宣教のデータから、日本の伝道の厳しさ、特に農村部で教会・宣教師が少ない状況を説明した。OMは日本の地方伝道を重視し宣教師を増員している。石川県に在住していたスミスドルフ氏は震災直後から、石巻、南三陸などの支援に協力。13年には宮城県登米市に移住した。沿岸での活動が減少したこと、登米に沿岸から避難・移住した人がいることから、17年からは登米での教会開拓に焦点を当てる。礼拝ほか、英会話、パーティー、などでコミュニティーつくりを重視している。

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 2日目のシンポジウムでは、地域の祭りや習俗にどのように関わるかという問題も提示された。岸浪氏は「土着の祭に関わらなくても、地道に悩みを聞くなど人々と関わる方法もある。信仰が成長すると、念仏や日本式のものが必要なくなるという変化もある」と話した。

 中澤氏は地域の祭りの中で、演歌ゴスペルのゲストを呼ぶなど協力した経験を話し、「自治会のリーダーらとは、どこまでできるかギリギリのラインを話し合っている。キリスト教が理解される次の一歩につながるとの思いで協力できることもある」と話した。会場からは「都市部では盆踊りの宗教性がなく、地域のイベントとなっている場合もあり、教会が関われる部分もある」と言う声もあった。森谷氏は「クリスマスツリーも元々異教由来。時間はかかるかもしれないが、日本の習俗でキリスト教化されるものもあるかもしれない」と話した。

 秋山氏は福祉、医療、法律の専門家などとともに自死者防止ネットワークの立ち上げに関わったことを紹介。「専門知識があると、案外簡単に解決できる悩みもある。だが複雑に絡み合い、解決が難しい悩みには、牧師が呼ばれることがあります」

 ほかにも「震災後、疲れてしまった教会もいくつかあった。災害が起こる前から教会観、宣教論をしっかり学んでおくことが重要」(大友氏)、「OMでは地域の教会と密接に関わることを重視する。今ある教会と対立して開拓するのではなく、別々のかたちの網を投げているのだと勧めている。毎月市内の教会で祈り合う機会を設けている」(スミスドルフ氏)といった声があった。

 同シンポ顧問の山口勝政氏(北関東神学研修センター所長、JECA・八郷キリスト教会牧師)は、福音主義教会が言葉を重視する一方、信仰が抽象化され、実践に欠けていたという側面を指摘。だが1970年代の日本伝道会議などで、社会的責任が認識され、東日本大震災の支援では、「福音派が社会的責任を自覚的に行うパラダイム転換となった」と語った。「実践なき神学は意味がない」として、実践と神学的反省を繰り返すことを勧めた。「福音の提示に急ぎすぎるのではなく、黙々とした行動を通して『あなたを愛している』と示し、ともに苦しむ姿勢を持つ、プレ・エバンジェリズム・アシスタンス(伝道前の援助)が求められる」と語った

 閉会礼拝の説教では、仙台バプテスト神学校校長の森谷正志氏が神学面からシンポをまとめた。エペソ1、2章から、「キリストによって再創造された私たちは、あらかじめ良い働きをするように備えられている。新しいいのちの御霊の原理が働く」と確認。マタイ28章19、20節の大宣教命令から「すべてのことを教えなさい」という言葉に注目し、信徒を立て上げ、良きわざを個人ではなく、家族共同体を基盤とした教会共同体において実践することを勧めた。さらに「『良いわざ』と『宣教』(福音のあかし)は、『と』が入ると誤解を与える。むしろ良いわざと宣教は一体であることを、特定のリーダーだけでなく、すべての教会で共有したい」と語った。

 人生全体で献身を考えるクリスチャン人生の再構築を示し、「どのような立場、仕事、働きも宣教と一体となる。実際は難儀だが、クリスチャン、教会だからこそできることがある」と話した。