2017年10月29日号 08面

イエスに出会うということ

イエスとの出会いは、人生を変える力です。古今東西、信仰を通して人格的に出会った人々は心を変えられ、新しい価値観で生きるようになりました。本書はイエスに出会った聖書の人物を取り上げて懐疑的な現代人に福音を語りかけた説教集ともいえる作品です。

 著者の他の書物同様、現代人が抱く疑問を取り上げ、現代社会のコンテクストに適用して私たちの心をつくり変える福音のメッセージを提供しています。

 前半5章は、オックスフォード大学の文字通り懐疑的な学生に向けたレクチャーを下敷きにしたものです。イエスが、率直でありながらも「軽蔑的な態度」をとるナタナエルの中にある「深い霊的な必要」を見抜いたことを現代人に当てはめながら、キリスト教の他宗教との違いや懐疑主義の問題を取り扱い、「イエスを信じるだけの確かですばらしい理由を示す」のです。他にニコデモとサマリヤの女、マルタとマリヤの姉妹、結婚披露宴での母マリヤ、復活のイエスに出会ったマグダラのマリヤを取り上げ、偶像礼拝の罪とイエスの神性を明らかにし、癒しと赦しがイエスの犠牲的な死の贖いによりもたらされることと、復活の信仰の確かさを疑い深い私たちの心に語りかけています。

 後半の6章以降は、マンハッタンのビジネスマンパーソンたちに語ったイエスの人格と働きに関するメッセージシリーズに基づくもので、私たちがどうイエスと出会えるのかを取り扱っています。具体的内容は本書を読んでいただくこととし、本書の意義は、現代社会の現実的なコンテクストに即して、懐疑的な現代人の問題を無視することなく理性的に取り扱いながら、イエスの十字架の死と復活という聖書の根本的メッセージを説得的に語りかけ、私たちの心が動かされるイエスとの人格的な出会いを提示していることです。また、現代を作り上げている文学、ビジネス雑誌、歴史、映画、哲学、神学を縦横無尽に取り上げることによって、聖書が私たちに身近なものになるのを助けてくれます。

評・福田真理=日本長老教会 グレースシテイチャーチ東京 開拓伝道者

『イエスに出会うということ』
ティモシー・ケラー著 廣橋麻子訳
いのちのことば社 千728円税込 四六判