決戦の日。オスマン帝国軍に切り込んむ神聖ローマ連合軍 ©2012 Martinelli Film Company International srl – Agresywna Banda

原題は’1683年9月11日’。イスラム教のオスマン帝国30万の軍勢が、神聖ローマ帝国皇帝の居城ウィーンに総攻撃をかけた第二次ウィーン包囲という史実を核に据え、アラーの権能と帝国の勢力拡大をめざす大宰相カラ・ムスタファとローマ・カトリック修道士マルコの信仰の相克を描いている。オスマン帝国の圧倒的勢力にウィーンが陥落していたらその後の世界の歴史は書き変わっていたかしれない歴史的転換点を、政治の側面からではなく、互いに異なる信仰と世界観の相克として描いた一大スペクタル作品。

ヴェネチア。カプチン会の教会堂には、奇跡を行うことで有名な修道士マルコ・タヴィアーノ(F・マーレイ・エイブラハム)の説教と祝福を求めて大勢の人々が集まっている。この夜も、盲人の男がマルコの説教を聞いているうちに癒されて見えるようになった。「私の力ではない! 主の御業によることだ。私ではなく、世に信仰を求めよ!」と諭すが、民衆の耳には届かずマルコに押し寄せてくる。そのマルコのもとに、ウィーンの神聖ローマ皇帝レオポルト1世から召喚の使者がやってきた。
一方、オスマン帝国のスルタン(君主)から委ねられた政治・軍事の実権と強力な指導力を持つ大宰相カラ・ムスタファ(エンリコ・ロー・ベルソ)は、帝国の勢力拡大こそ国力の源泉を信念に欧州覇権への時期を狙っていた。そのころイタリアに現れた彗星群。マルコは、それを見て血の海を予感した。マルコと同じ神学校で学んだトルコ人アブールは、同じ彗星群を見て戦争の近いことを感じ、馴染めないキリスト教から’心の信仰’イスラム教に回心しイスタンブールへと旅立っていく。

カラ・ムスタファは、時機と見てオーストリアへ進攻。またたく間に’黄金のリンゴ’と栄華を称えられるウィーンを30万の大軍で包囲した。三十年戦争の間に整備増強され堅固になった城壁に囲まれているが、籠城した兵力は1万5千。2ヵ月を超す籠城戦を耐えていたが、落城間近な状態。そのような状況でも籠城軍の精神的な支えになっている修道士マルコの噂はカラ・ムスタファの耳にも聞こえている。少年時代、崩れ落ちてくる荷物からマルコを助けたことがあるカラ・ムスタファは、自分が信じるアラーはなぜ自分にマルコを助けさせたのかを確かめたくなり、アブールを使者に立て戦場で対面した。

いよいよ総攻撃をかける日。ローマ教皇に4万規模の援軍を約束していたポーランド王ヤン3世ソビェスキ(イエジー・スコリモフスキ)の軍勢が姿を見せた。だが、勢力的にはオスマン帝国軍にはるかに及ばない。

オスマン軍の大宰相カラ・ムスタファの息子アリとその母 ©2012 Martinelli Film Company International srl – Agresywna Banda

第1次ウィーン包囲から150年。プロテスタントとカトリック諸侯による戦いから欧州全般の勢力戦に発展した三十年戦争は終結したものの、疲弊した状況にある欧州の諸侯。神聖ローマ帝国内では皇帝家にあるハプスブルク家(レオポルト1世)だが、フランスのブルボン家(ルイ14世)とは反目しあっており、ブルボン家は静観することでオスマン帝国軍の進攻を政治的には支えている。そうした史実のあやは理解されているものとしてテンポよく物語は展開する。

いきおい、当時の王侯諸侯の豪華な生活描写と人物たちの内面を描写する演技が注目される。戦闘シーンのCG処理が、2012年の作品としては物足りなさをおぼえさせられるものの、戦争に明け暮れる17世紀の時代背景の中で、自由と愛を守ろうとする信仰と、力と戒律の信仰に生きようとする信念の相克に力点を注いだ物語としては楽しめる。

2003年にカトリック教会の福者に列せられたマルコ・タヴィアーノだが、彼のいくつかの奇跡を描写するだけにとどまらず、その奇跡の意味が主なる神への信仰を喚起することにあると、その都度宣べている脚色には好感が持てた。 【遠山清一】

監督:レンツォ・マルチネリ 2012年/イタリア/120分/映倫:G/原題:11 settembre 1683 英題:The Day of the Siege 配給:アルシネテラン 2014年4月19日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/roma/
Facebook:https://www.facebook.com/romaalcine