スティーヴは仕事の仕上げとばかりにタウンミーティングに臨んだのだが… © 2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

大企業の幹部候補者として順調に進めてきたビジネスのフィニッシュワークに訪れた田舎町。そこで思わぬ妨害に遭い、情勢が急変。仕事だけではなく、自分の人生観そのものが揺るがされる情況を迎えた。人生には、いつ何時、思いもよらなかった決断を迫られる出来事に遭遇するか分からない。決断して歩む人生はそれぞれに委ねられている。リアルな状況設定とミステリアスでスリリングな展開。アメリカらしい映画なのに答えが観客一人ひとりに委ねられていて好感が持てた秀作。

大手エネルギー会社のエリート社員スティーヴ・バトラー(マット・デイモン)は、担当しているシェールガス採掘権ビジネスの仕上げとして田舎町マッキンリーへパートナーのスー・トマソン(フランシス・マクドーマンド)と赴いた。

昔ながらの小規模農家がほとんどの町で、町の実力者とは周到な根回しも出来ている。あとは一軒一軒訪問して採掘権の契約を取り付け、タウンミーティングで住民の総意を得てよりスムーズにビジネスを進めればいいだけ。スティーヴとスーは、町に着くとすぐ仕事にかかり順調に契約を取り付けていく。

だが、学校の体育館で開かれたタウンミーティングでは、高校の校長フランク・イェーツ(ハル・ホルブルック)が専門知識を踏まえた疑問点をスティーヴに質問する。混乱し始めたミーティングは、3週間後に住民投票することで閉会した。

町の人たちに篤く信頼されているフランクのことを本社に調べさせると、有名工科大学の教授を務めた人物だった。また、住民投票のニュースを聞きつけて環境保護団体の活動家ダスティン・ノーブル(ジョン・クラシンスキー)がやってきた。ダスティンは、自らも採決権を認めた結果、環境汚染が起こり農場を廃棄した経験を訴える。町を支える大企業の誘致もなく寂れていくだけだったが、シェールガスの採掘権によって将来に向かって経済的安定をもたらされると期待していた町の空気は一変する…。

環境保護活動家ダスティン(右)の出現は、ダスティンたちを窮地に追い込んでいく © 2012 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

アメリカのシェールガス革命とも呼ばれる新しい天然ガス資源の採掘は、本作の設定同様の情況をアメリカ各地に起こしている。だが、地域開発と経済発展がもたらす環境破壊の問題性は、アメリカに限らず日本や世界各地に通じる。

スティーヴ自身、自分の町から大企業が撤退した後、町が寂れ一家が没落していく悲哀を経験している。その苦労が、経済的安定こそ人生を幸せにするという価値観を培ったようだ。だが、ガールフレンドになった小学校教師のアリス(ローズマリー・デウィット)や校長のフランクとの出会いは静かにスティーヴの心の中に眠っていた何かを気付かせていく。

フランクは、「君は、今どきまれに

みるいい人だ。だが、仕事がよくない」と、スティーヴを認めながらも惜しむ言葉を語る。その言葉の意味を、ショッキングな展開で思い知らされるスティーヴ。60代の監督ガス・バン・サントの演出は、なんとも活気があり後味の良い作品に仕上げていて爽快だ。 【遠山清一】

監督:ガス・バン・サント 2012年/アメリカ/106分/映倫:G/原題:Promised Land 配給:キノフィルムズ 2014年8月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開。
公式サイト:http://promised-land.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/promised.movie

2013年第63回ベルリン国際映画祭スペシャルメンション受賞、2012年第84回ナショナルボードオブレビュー表現の自由賞受賞作品。