インタビュー:映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」――ジャンフランコ・ロージ監督に聞く
ローマの中心から半径10kmほどの円を描いて伸びるローマ環状線高速道路(GRA)。全長は170Kmに及び一日16万台もの車が行き交う大動脈だ。ローマ市と郊外の境目のような環状線沿いの環境とそこに暮らす人々を在るがままに詩的に描いている。昨年の第70回ベネチア国際映画祭では、初めてドキュメンタリー映画がグランプリにあたる金獅子賞を受賞した。
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ローマ環状線沿いに
生きる人々の生と聖
原題はSacro GRA(聖なる環状線)。’聖なる’とは環状線の円弧を聖餐式の杯になぞらえてタイトルに付けたという。「ローマの中心にはバチカン市国があり、サン・ピエトル大聖堂などがあってローマのどこかしこにも聖的な権威を感じさせるものが在ります」。
だが、この作品には、トレヴィの泉やパラティーノの丘などローマを象徴するような場所は登場しない。「そう。この作品は二つの見えざるものを互いに探し求めているのです。一つは、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』にインスパイアされたものです。その本では、マルコ・ポーロとフビライ・カーンが理想の都市を模索する物語ですが、言葉に表現する度にその姿は変容し、話し合うほどにその様相は抽象化されていくという都市の物語です。もう一方は、’聖なるもの’とも関連するのですが、宗教的なシーンです。例えば、フランシスコ会修道士が空の写真を撮るために高速道路に出てきたり、聖母の祭で太陽を見るため毎年同じ所に集まる人々。マリヤの十字架が輝いているようなシーンはとても神秘的です」。
人口流動の変化が大きいのも都市部の様相の一つ。階段様式の地下墓地に収められていた棺が、手荒い作業で解体され、ドライボーン(枯骨)になっていれば小さな骨壺に収められ共同墓所に移管される。納棺から15年経ち、親類縁者のいない遺体の行く末だ。「死の神秘性とは何の関係もないような、暴力的ともいえる荒々しい作業に驚きました」
GRAの沿道に暮らすさまざまな人種の多様な暮らし。沿道の草をはむ羊の群れ、ヤシの木を音波探知機で診断しながら害虫の生態研究をしている学者。マンションが立ち並ぶ市街地に昔ながらの城を持つ没落貴族。アパートの一室で、日がな一日世間話から知的な文学論までとりとめなくおしゃべりしている老紳士とその娘。外国産うなぎの輸入動向に苛立つテヴェレ川のウナギ漁師。認知症の母親を在宅介護しながら毎日事故でのけが人などを搬送する救急隊員。キャンピングカーでの流浪暮らしをはかなみながらも自由であることを謳歌する両性具有の車上生活者。それぞれがパートではなく、生活の中での会話をキーにありのままの人生が自由に編纂され詩情味豊かな映像で物語られていく。
「私は、登場人物のストーリーに近づくため、彼らと事前のコミュニケーションに多くの時間を取ります」というロージ監督。カメラを意識する様子もなく自然体で語る一人ひとりの在り様は、詩の朗読のように響いてくる。 【遠山清一】
監督:ジャンフランコ・ロージ 2013年/イタリア=フランス/イタリア語/83分/ドキュメンタリー/原題:Sacro GRA 配給:シンカ 2014年8月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.roma-movie.com/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/ローマ環状線めぐりゆく人生たち/1430924123818276
2013年第70回ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。