インタビュー:ウベルト・パゾリーニさん(映画監督・映画製作者)――すべての人の生き方に尊厳と価値がある

監督プロフィール:1983年に助監督として映画界でのキャリアをスタート。91年にレッドウェイブ・フィルムズ・リミテッドを設立し、「パルーカヴィル」(95年)、「フル・モンティ」(97年)、「クローサー・ユー・ゲット」(2000年)などを製作。08年には監督第1作として「マチャン/大脱走」を撮り、本作は監督第2作で、脚本も執筆した。©クリスチャン新聞

新年1月に公開される映画「おみおくりの作法」(原題:Still Life)。市役所の民生課に勤める男が、孤独死した人の経歴や遺族調査などを行い、なんとか人間としての尊厳ある弔いで’おみおくり’する話。ヴェネチア国際映画祭監督賞ほか各国の映画祭で作品賞、男優賞などを多数受賞し高く評価されている作品。グローバリズムとともに個人主義を強調する価値観が強調されていく現代社会にあって、隣人とのコミュニケーションの在り方を考える1つのテーマとして作り上げたウベルト・パゾリーニ監督に聞いた。 【遠山清一】

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まずは、映画「おみおくりの作法」のあらすじを紹介しよう。主役のジョン・メイは市の職員。ロンドン市ケニントン地区民生係を務める独身。22年間、同じルートを歩いて通勤し、紅茶を好み、机の筆記具や食器の位置、朝夕の食事メニューも変えない。几帳面な性格は、仕事にも現れる。孤独死した人の想いと尊厳が重んじられる葬式で’おみおくり’できるように努める。故人の宗教観や人生観を推察できる遺品や遺族と連絡するための資料を基に、遺族や知人を捜し回る。ある日、自分のアパートの真向かいに住む男性が孤独死しているとの通報を受けた。長年住んでいるが、ビリー・ストークというその男性の名前さえ知らなかったジョン。遺品の1冊の古いアルバムには、生まれたときから8歳くらいまでの女の子の写真がたくさん貼られいた。ジョンは、そのアルバムと手紙やメモから遺族を捜すため役所に戻ると、上司から人員整理のため退職を勧告された。ビリーの件が最後の仕事になる。刑務所の所長、元彼女や元の職場を訪ねるうち、荒くれ者だったビリーの生き方が分かってくる。そして、写真の少女、現在はドッグトレーナーをしている独身の娘ケリーの家を捜し当てる。はじめは父ビリーの葬式に行くのをためらっていたケリーだが…。

ジョン・メイは最後の担当になるビリー・ストークの娘ケリーの家を捜し当て訪問したが… © Exponential(Still Life)Limited 2012

現代社会でどのように隣人との
コミュニケーションをとるか?

パゾリーニ監督は、この作品の企画を新聞のインタビュー記事を読み着想したという。「女性の民生係の方でしたが、その記事を読んですぐに、孤独死の人の葬式に遺族や知人は誰もいなくて、民生係の人がたった一人参列しているというビジュアルなイメージが湧いてきました」。その女性をはじめ30人以上の民生係の仕事現場など7か月取材して、3人ほどのモデルをイメージしてジョン・メイのキャラクターを練り上げたという。「自分とはかけ離れていた世界が、しだいにパーソナルな物語になっていきました」。ジョンの仕事やビリーの刑務所でのエピソードなど、ほとんどは実際に取材したエピソードが挿入されているという。
だが、この作品では、「資本主義社会というか、現代の社会共同体やグループの一員として、我々はどのように周囲の人と隣人としてコミュニケーションを築いていけるか」が、伝えたい重要なテーマだった。「現代社会は、社会の一員というよりは一人ひとりが自分の目的を果たすのが良いというような、個人主義の価値観が強く奨励されているように思います」。なにも大げさな説教をしようというのではない。「私の場合は、この作品の企画を起ち上げてから、自分の家の隣近所のドアベルを鳴らして、挨拶することを始めました。とても親しくなれた方もいますし、ご家族の葬式に参列することも経験できました」。

ジョン・メイとビリー・ストーク
2人に共通の人に寄り添う生き方

ジョン・メイは、葬式で孤独死した故人の好きな曲を流し、葬式説教を書き、司式者に読み上げてもらう。故人の想いを重んじる姿勢に、人は孤独な存在ではないことを思わされる。
荒くれ者だったビリーだが、刑務所のチャリティで、4階からベルトを口で咥えてぶら下がっている時間で寄附金がつり上がっていくイベントで3分半も頑張った。ビリーらしい慈善事業だと刑務所の所長は言う。「2人の生き方はかなり違いますが、互いに影響を受けあいます。ジョンは、ビリーの生き方を知るにつれ、変えようとしなかった自分の好みや生活のリズムが変化していきます。公園のホームレスとウィスキーを飲み合いながらビリー同じように語り合うというように。亡くなったビリーにとっては、ジョンがケリーにビリーのことを語ることによって、父と娘の関係が修復されていきます。ジョンとビリーに共通しているのは、個人主義をめざす生き方ではないところです。2人はコミュニティの一員としての生き方をしています」

ビリー・ストークの生前の知人らを訪ねるうちにジョン・メイは共感する何かが心のうちに湧いてくる © Exponential(Still Life)Limited 2012

原題’Still Life’の’Still’には、「未だにという意味もあります。つまり、それでも人生なんだという意味にもとれます。ジョン・メイは、物静かな、平然とした生き方なように見えますが、それでも価値のある人生である」ことを伝えたいとの願いが込められている。
「ジョン・メイは、孤独な生き方をしていますが、彼自身は孤独を感じていませんし、憐れんでほしいわけでもありません。自己憐憫は持っていないのです。それだけほかの人たちとの関わりに価値を置いています。そのような生き方にも、価値を認めるべきだと思います」。

監督:ウベルト・パゾリーニ 2013年/イギリス=イタリア/87分/原題:Still Life 配給:ビターズ・エンド 2015年1月24日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/omiokuri/
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2013年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門監督賞/C.I.A.E. Award、Francesco Pasinetti Award最優秀督賞/Civitas Vitae Award。2013年レイキャビク国際映画祭最優秀作品賞/国際批評家連盟最優秀作品賞、2013年アブダビ国際映画祭最優秀作品賞受賞、2014年トランシルヴァニア国際映画祭観客賞受賞、2014年トロンハイム国際映画祭観客賞受賞、2014年エディンバラ国際映画祭英国映画における最優秀パフォーマンス賞(エディ・マーサン)受賞、2014年ロシアVOICES film festivalグランプリ・最優秀男優賞受賞、2014年エレバン国際映画祭審査員特別賞 ほか多数受賞。