強度の視覚障害をもつサリヤ(左)は、研修初日に遅刻してきたマックスとすぐ親しくなるが… (C)ZIEGLER FILM GMBH & CO. KG, SEVENPICTURES FILM GMBH, STUDIOCANAL FILM GMBH

強度の視覚障害をもつ男性が一流のホテルマンになる夢をかなえた実話にインスパイヤされた作品。原作者サリヤ・カハヴァッテの実名で展開する物語は、“夢・ヴィジョン”を捨てないで、むしろ生きる努力の糧としていく“現実”の素晴らしさを心に植え付けてくれる。仏教徒の原作者は、「夢への道があるのではない。いま歩いている道が夢なのだ」というブッダの言葉を信じて実践していく。ドイツ全土で大ヒットした本作は、“夢・ヴィジョン”に生きる確かな一歩を踏み出す希望と勇気を想起させてくれる。

【あらすじ】
ドイツ人の母とスリランカ人の父の間に生まれたサリヤ・カハヴァッテ(コスティア・ウルマン)。子どものときから一流のホテルマンになることを夢見てきた。だが、先天性の病気が原因で網膜剥離を起こし、手術をしても晴眼者の5パーセントの視力しか保てない。父親は、早くから障害者の学校への転校を勧め「夢はあきらめて現実的に生きろ」と言うが、サリヤはくじけない。「普通の学校を出て一流ホテルで働きたい」という夢は諦めず、ギムナジウム(中高一貫教育の普通学校)の課程を抜群の記憶力と不屈の努力でどうにか卒業する。

ドイツ中のホテルに就職願書を送付するサリヤだが、視力障害のあることを正直に記載していたため軒並みに「No」の返事。ついには視覚障害を隠して応募し、ようやくミュンヘンの高級ホテル「バイエリッシャー・ホフ」から“研修生”としてチャンスが与えられた。サリヤの勉強を助けを応援してきた母ダグマール(シルヴァナ・クラバチ)と妹シーラ(ニラム・ファルーク)は、ホテルに前乗りして回転ドアからエントランスのソファーまでの距離を歩数でチェックしてサリヤに記憶させ面接に送り出す。

フリート部長(アレクサンダー・ヘルト)との面接をなんとかクリアして研修生になったサリヤ。同期6人のなかで親しくなったマックス(ヤコブ・マッチェンツ)が、サリヤが強度の視覚障害者であることに気づいた。だが、彼は責任者には告発せず、サリヤにホテル内の構造や階段の段数などを教えて協力する。電動スライスラーで怪我をして料理長気づかれ、アフガニスタンからの難民で元外科医だった皿洗いのハミド(キダ・コドル・ラマンダ)にも気づかれるが、彼らも夢をもって努力するサリヤに協力する。

厳しい指導教官クラインシュミット(左)はサリヤに対して何かと辛く当たる (C)ZIEGLER FILM GMBH & CO. KG, SEVENPICTURES FILM GMBH, STUDIOCANAL FILM GMBH

同僚、移民労働者、ホテルのスタッフらの協力と励ましを受けながら、責任者らに気づかれず研修をこなしていくサリヤは、ある日、ホテルに農作物を納入しているシングルマザーのラウラ(アンナ・マリア・ミューエ)に恋をした。ハミドの協力でラウラとレストランで食事することになったサリヤだが、自分が視覚障害であることを打ち明けられないサリヤ。一方で、研修課程はレベルアップしていき、指導責任者クラインシュミット(ヨハン・フォン・ビューロー)が担当する研修が始まった。「三度警告受けたら即刻クビ」と宣言する厳しい教官だが、クラインシュミットはサリヤに好ましくない感情を抱いたようだ…。

【見どころ・エピソード】
ベッドメイクから料理、皿洗い、カクテルづくりなどホテルマンの多種多彩な研修課程を5パーセントしかない視力でどのようにクリアしていくのか。障害に気づいた同僚、難民労働者、従業員らの協力を受けながらも、嫌がらせのように思えるほどのクラインシュミットの要求や両親の離婚など視覚障害を抱えての訓練の心労、恋人との感情の行き違い、家族の崩壊に心身ともに限界を超えてしまうサリヤ。夢と挫折、人生のアップダウンをまざまざと見せつけられる物語の展開だが、人と人とのつながりの有り難味は夢を捨てない大切さと共に、明日への一歩へと踏み出すようエールに溢れている。 【遠山清一】

監督:マルク・ローテムント 2017年/ドイツ/111分/映倫:PG12/原題:Mein Blind Date mit dem Leben 英題:My Blind Date with Life 配給:キノフィルムズ 2018年1月13日(土)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開。
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