4月29日号紙面:“悪”への応酬は“力”ではない 『悪と神の正義』 N・T・ライト著 評・山口希生
聖書が取り扱う2大テーマが「罪の問題」と「悪の問題」であるならば、イエスの十字架は「罪の問題」への神の答えなのだと信じられてきた。イエスは私たちの罪のために死なれ、その死と復活により私たちは罪と死から贖われたのだと。
では、「悪の問題」はどうなのだろうか。神の創造した世界をむ悪の現実、アウシュヴィッツ、広島、9・11事件、福島原発問題など、被造世界を破壊してしまうほどのスケールの悪に対して神は何をしておられるのだろうか。イエスの十字架は、こうした巨大な「悪の問題」への神の答えなのだろうか。本書『悪と神の正義』は、イエスの十字架こそ神の「悪」への勝利であったという視点を提示する。聖書は、生ける神が悪の問題に取り組むストーリーであり、十字架はそのクライマックスなのである。イエスは悪の力に対して、力で応酬することはしない。むしろこの世界を蝕むあらゆる悪の力をその身に引き受けることで、悪に打ち勝った。
N・T・ライトは、この十字架における悪への勝利こそ、キリストの体なる教会が21世紀の悪の問題に取り組むためのモデルとなる、と論じる。「福音書が教会に求めていることは、苦難を受け入れる愛を通して、この世に神の勝利を実行していくことである」(122頁)。あるキリスト教国が自らを神の軍隊と見なし、力ずくで悪の問題に対処しようとするならば、それはイエスの十字架の勝利からはほど遠い。
教会には十字架の勝利を現代社会において実行していくのと同時に、悪が滅ぼされる未来の世界を先取りするという務めがある。そのような未来を先取りするための重要な方法の一つは、「赦しの実践」である。赦しとは単に悪を忘れたり軽視したりすることではない。赦しとは、悪を悪として直視しつつも、なお壊れた関係の修復のために全力で取り組むことなのである。5章では、このような教会の困難な務めを実践するための思慮深い考察が展開されている。ぜひ一読されたい。(評・山口希生=日本同盟基督教団中野教会伝道師)
『悪と神の正義』 N・T・ライト著 本多峰子訳 教文館 2,160円税込 四六判
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