映画「ルイ14世の死」――栄華を誇った国王の肉体をも蝕む“死”の凡庸さ
タイトルからは、幾多の戦争によるフランスの領土拡大とベルサイユ宮殿を建造し、絶対王政を確立した“太陽王”ルイ14世の死によってブルボン朝の衰退からナポレオン帝政へのドラマチックな展開をイメージしそう。だが、そのような歴史絵巻ドラマではなく、ブルボン朝の栄華を極めた国王ルイ14世が、病床に就き死に至るまでの3週間を克明に描いている。
本作についてアルベルト・セラ監督は、「(伝説的な)国王の死を見せることは、通常、神話を呼び起こしてします。…だからこそ、とても小さな、とても人間的なものから歴史が変わるということを見せるために、神話を凡庸さへと取り戻す必要がある。」と、あるインタビューに答えている。誰にでも訪れる肉体の死は、美しくもなければ劇的でもない。
侍医の最初の診断
と死後の解剖
1715年8月9日、狩りから帰った王は、疲れ果てていた。翌日、左足の痛みを訴える王に、侍医ファゴンは坐骨神経痛の診断を下す。数日間は公務に就いたが、足の痛みは増していき、食事も摂らなくなり、身体は衰弱し、王の死への苦しみが始まる。1715年8月9日、狩りから帰った国王ルイ14世(ジャン=ピエール・レオ)は、疲れ果てていた。翌日、左足の痛みを訴える王に、侍医ファゴン(パトリック・ダスマサオ)は坐骨神経痛の診断を下す。数日間は公務に就いたが、足の痛みは増していき、食事も摂らなくなり、身体は衰弱し、王の死への苦しみが始まる。
8月21日、王の容態が突然悪化。パリ大学の4人の医師らが診察にきて脚の変色を危惧し瀉血をすすめるが、王は侍医ファゴンの診断を受け入れる。
8月24日、王の左脚に壊疽がはっきり現れるが、だれも王の脚を切断する処置はしない…
豪華な寝室で死に蝕ま
れていく冷徹な記録
ほとんどのシーンが王の寝室で描かれている。病の王を慰めようと、音楽会が催され招かれた客たちが王に挨拶に来る。ビスケットを食べて見せたり、帽子を手に取り回転させて被る仕草で応える王に、拍手する客たち。王が屈託のない笑顔を見せたのは、愛犬に向けてだけ。家臣たちの関心は、病床にある王よりも、次の王に移っているかのような微妙な空気が伝わってくる演出。
5歳の曾孫アンジュー公(後のルイ15世)を呼び寄せ、「私は多くの戦争をしたが、私の真似をしてはならない」と諭すことばは、ルイ14世自身5歳で王位に就いたの率直な悔悟なのだろうか。
史実資料を丹念に読み解き、栄華を極めた王の身体をも“死”は蝕んでいく。すべての人に“死”はやってくる。ベルサイユ宮殿の豪奢な寝室で迎える王も、“死”の凡庸な闇をくぐり抜けいのちの創造主の前へと歩んでいく。 【遠山清一】
監督:アルベルト・セラ 2016年/フランス=スペイン=ポルトガル/フランス語/115分/原題:La mort de Louis XIV 配給:ムヴィオラ 2018年5月26日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://www.moviola.jp/louis14/
Facebook https://www.facebook.com/ルイ14世の死-1630620947030091/
*AWARD*
2016年:ジャンゴ賞。カンヌ国際映画祭特別招待作品。 2017年:リュミエール賞最優秀男優賞(ジャン=ピエール・レオ)、最優秀撮影賞受賞。