九キ災災害支援看護師 西日本豪雨被災地支援に赴くボランティアに向け「熱中症対策」呼びかけ
広範囲にわたり被害をもたらした西日本豪雨。甚大な被害が出た岡山、広島、愛媛などには、14日からの三連休中に、何万人ものボランティアが駆けつけた。しかし、長雨から一転、7月中旬は連日気温35度を超す猛暑が続き、中には40度を超す地域も出ている。そんな中、昨年7月に九州北部を襲った九州北部豪雨で、災害支援ナースとして福岡県朝倉市の中学校の避難所で奉仕した経験をもつ、九州キリスト災害支援センター看護師の山中弓子さんが、支援活動に赴くボランティアに向け、「熱中症対策を」と呼びかけている。
災害支援看護師が伝える熱中症対策(予防編)
◇現場で適用できるポイント
屋外、屋内問わず、日中に作業される方へ
この炎天下、気温もどんどん上昇し、湿度も高い中での作業は正しい熱中症対策が必要です。熱中症は脳に影響する怖い症状なのです。痙攣、意識障害、重篤な場合は死に至ります。正しい熱中症対策をしっかりしましょう。予防のポイント5つを挙げておきます。
①作業前の水分摂取とこまめな水分補給
通常はスポーツドリンクがお勧め。塩分と糖分と水のバランスなど、細胞への吸収率を考えて作られています。水で薄めると浸透圧が代わり吸収率が低下してしまうので薄めないでください。嗜好品として飲む場合は薄めても構いません。
スポーツドリンクの後味が嫌な人は、先にスポーツドリンクを飲んで最後の一口だけお水を飲む。もしくは塩分や糖分を補給し、その後にお水を飲むようにすると良いです(ただし、吸収率は整えられなくなります)。
▽低ナトリウム血症
大量の発汗がある時に塩分を補給せず、水だけを飲んでいると低ナトリウム血症という生命に危険を及ぼす事態になるので注意が必要です。
▽体内吸収までのタイムラグ
水分や栄養のほとんどは小腸から吸収されます。胃の中に入れば「体内に水分補給ができた」と考えがちですが、細胞に届いて初めて「水分が補給できた状態」になります。
今飲んだ水分が細胞に行き届くのは約20分後(空腹時)ですので、こまめに水分摂取する必要があるのです。まずは作業開始前(大量の汗をかく前)にあらかじめスポーツドリンクなどで水分を摂っておきましょう。
▽注意いろいろ
コーヒーや紅茶、緑茶などのカフェインの入っているドリンクは利尿作用があり、脱水を招くのでよくないです。アルコールは言語道断です。
「喉が乾いた」「口の中がカラカラ」と感じる時は脱水が始まっています。躊躇せず経口補水液(OS1等)で水分補給をしてください。
「水分を摂ると汗かくから飲まない」もダメです。体は汗をかくことで体温をコントロールしようとします。汗が蒸発する時の気化熱を利用して体表温度を下げようとしているので、汗をかかなくなったら重症の脱水症。すぐに救急車を‼
②少なくとも30分に1回は休憩
タイマーをセットしておきましょう。「少なくとも」です。
少しでも「疲れてきた」「頭痛いかも」と思ったら、すぐに休んでください。回復したらまた作業すれば良いのです。でも、倒れてしまったら話になりません。
「俺は強靭だから平気」は無しです。「休憩してたら作業の効率が悪くなる」も無しです!!
ボランティアさんが休憩しないと、家の方も休憩できません。休憩しながら雑談したり、緊張や不安を和らげたり、苦しい胸のうちを吐き出す機会を作りましょう。話を聞いて差し上げてください。大事なニーズが隠れているかもしれません。ニーズが見えたら次の支援に繋げてください。
③糖分・塩分の補給
泥だし作業は大量のエネルギーを消費し、汗で塩分をはじめとするミネラルも失われてしまいます。休憩時に必ず補給しましょう。失われたエネルギーをブドウ糖タブレットや黒砂糖、角砂糖、氷砂糖等で補給。疲労回復にはクエン酸やビタミンC、オレンジジュース、レモネード、ラムネ菓子(重曹、ブドウ糖、クエン酸入り)などがお薦め。
失われた塩分やミネラルは塩タブレット、韓国海苔、梅干し、お漬け物、塩昆布などで補いましょう。どれも休憩中にささっと補給できるものです。
④体温を下げる
風通しの良い日陰で休憩する(日陰でも風通しが悪い所や熱のこもった所、湿気の多い所はダメです)。うちわや扇風機等で体の熱を逃がす。冷たいタオルで体を拭く。水をかぶる。保冷パックなどで首(頸動脈)を冷やす。濡れた服を着替える。
▽衣類の選択
化繊の目の詰まった衣類は服の中に汗が貯まって衣類が肌に張り付き、毛穴を塞いでしまうので熱を逃がすことができません。「泥で汚れるから」とナイロン製の割烹着タイプのエプロンを着用していた方が重症の熱中症で運ばれてきたことがありました。その作業着や割烹着、エプロン、大丈夫ですか?
⑤十分な栄養と休息、睡眠
タンパク質を多く含む食品を!(大豆製品、乳製品、肉、魚など)。うなぎや豚肉は疲労回復にも効果があります。寝る前にシャワーだけでなく浴槽に浸かって筋肉へのケアを! 水圧による筋肉へのマッサージ効果や血流を良くすることで疲労物質や老廃物の排出を促し、修復栄養素を筋肉細胞へ届けやすくします。
入浴によって自律神経の働きを整える事は、体温コントロールの働きを整えることにも繋がり、熱中症の予防にもつながります。また、睡眠不足は脳の働きや自律神経の働きを低下させるため、熱中症になるリスクを高めてしまいますので、充分な睡眠をとりましょう。明日の作業に備えて栄養をしっかり摂って、ゆっくり休んでください。ベストな体調で臨みましょう。
◇実際にあった話
昨年、九州北部豪雨災害の避難所支援で救護所に入っていた時、泥出しを依頼された住民さんからの意見も5つのポイントの中に反映させていただきました。
その方が泣きながら避難所に帰って来られ、「ボランティアさんを熱中症にさせてしまった。今日で2回目。申し訳なくて(ボランティアさんを)お願いするのが怖い」と、過呼吸になるくらい号泣されていました。
「ボランティアセンターさんで休憩をするよう具体的に決めてほしい。タイマーを鳴らすとか」とも。もちろんボランティアセンターでも熱中症に気を付けるよう懸命に呼び掛けておられましたが、毎日何人もの救急搬送があり、その後、主要なボランティアセンターやVCサテライトには看護師の配置がされました。今回も検討されているそうです。
そして、もっと具体的な指導も必要だったのかも、と私は感じています。
ボランティアから「作業が途切れると効率が悪くなる」などの意見もありましたが、熱中症は脳へのダメージなので生命の危機に至ります。みんなで気遣い、声をかけ合って、予防していきましょう。
◇依頼される住民さんのためにもぜひ正しい熱中症対策を
熱中症搬送されると…、作業を依頼された家の方も心を傷められます。受け入れる病院も対応に追われます。
何回も何回も書きますが、皆さま、熱中症にはお気をつけくださいませ。
補足として、塩飴は炎天下の高熱でねちょねちょになるのでタブレット型の方がお勧めです(大抵のタブレットはブドウ糖も入っている)。しかし、飴タイプはゆっくり舐めている時間を休憩時間とし、「なくなるまではうちわであおぎ続けること」と、みんなで体温を逃がすのを兼ねてゲーム感覚にするのも良いかも? です。