著者は、現代人の生き方は「サーカス」のようだと言います。パフォーマンスを行う曲芸師と、それを見物するだけの観客です。一方、聖書が描く人間本来の姿は、むしろ「歩く木」のようではないかと指摘します。神の愛という地に深く根ざし、生ける水を水源としつつ、キリストという道に沿って歩む「歩く木」です。

霊的同伴者として多くの人たちの霊的形成の旅路に寄り添ってきた著者は、この二つの比喩(メタファー)を用いて、私たちの心の奥底にある切望に光を当てます。私たちは、神の愛によって生かされつつ、神とともに歩みたいのです。神のご栄光を仰ぎ見、そのご栄光をこの世に向かって反映させる者でありたいのです。本書はこの切望が現実の歩みとなるための良き道案内です。

各章は修養のための様々な霊的修練を導入する形になっており、その意味で実践的です。ストレス対処法として近年取り上げられることの多いマインドフルネスも、キリスト教の伝統という文脈の中で語られます。しかしフィリップスのアプローチは、単に修練のハウツーを教えるものではありません。著者の紡ぐ言葉は、社会学者らしくデータや文献に基づきつつも、個人的な体験や弱ささえも開示し、多様なイメージや逸話を用い、読者をある世界観に招きます。それは、サーカス的生き方の喧噪の中では忘れられていた、神や人との親密な交わりという世界観です。クロノス時間に生きる欠乏感や焦燥感から解放され、カイロス時間に生きる豊かさが広がります。各章の最後に掲げられた「内省のために」という思い巡らしのヒントは、私たちの切望を祈りへと変え、神の御前に出ていく助けとなるでしょう。

なお、副題には「霊的同伴への招き」とありますが、本書はその方法を伝授するものでも体系的に説明するものでもありません。それでも、霊的同伴に関心のある方にとっては、その空気感を知ることのできる良書です。私自身、霊的同伴の働きを始めて3年になりますが、とても励まされ、この働きへの思いを新たにしました。

評・中村佐知=翻訳者

修養する生活』スーザン・S・フィリップス著 重松早基子訳

いのちのことば社 1,944円税込 四六判

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