(C)2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute. All Rights Reserved

28歳でポリオ(急性灰白髄炎)に罹患し首から下が全身まひで、人工呼吸器を着けていないと生きられない状態になり死を覚悟した青年が、出産を控えた妻の深い愛情と献身的な介護によって生き続ける努力へと勇気づけられ、友人らと全身不随障害者たちのための車椅子や様々な用具を開発して生きる希望と“生活の質”(Quality Of Life = QOL)を求める道を拓いた実話の映画化。

製作者は、モデルになっているロビン・カヴェンディッシュ(1930~1994年)とダイアナ夫妻の実の息子であり、「この映画に込められたメッセージは、支えてくれる人が近くにいれば何ごとも成し遂げられる、ということ。…最愛の人との関係にすべてを捧げれば、人生はより美しく、素晴らしくなるのです」と英国でのあるインタビューに答えている。この言葉通り、妻ダイアナと友人たちに支えられたロビンの生き方は、いつも明るく振る舞い周囲を笑顔でチャレンジへと巻き込んでいく。

人が生存するのには
信じる心の力が要る

ガーデンパーティで美しく気品のあるダイアナ・ブラッカー(クレア・フォイ)を見初めたロビン・カヴェンディッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)は、「チャンスはないぞ。大勢フラれている。」という友人たちの忠告を尻目に猛烈にアプローチ。プロポーズに成功する。だが、ダイアナの双子の兄たち(トム・ホランダー:二役)は、財産のないロビンとの結婚には反対。それでもダイアナは「私には分かるの。彼こそ運命の人」と意志は揺るがず1957年に二人は結婚した。

翌年、ロビンはダイアナを伴ってアフリカのケニアで茶葉の仲買人の事業を始めた。“創造の夜明け”のような大自然の壮大さに魅了される二人。ドン・マックイーン医師(ベン・ロイド=ヒューズ)は、「生存するには信じる心が必要だ」と悲劇的な決断の一例を語り始めた。収束しつつあるマウマウ団の乱で、狭い部屋に詰め込まれた60人の囚人たちがリーダーの「部下たちに死を許可する」と言った言葉を聞き、翌日全員が死んでいたという。「どうやって?」とのロビンの問いに、マックイーン医師は「心の力だ。彼らは死を選んだ。全員、壁の方を向き、死んだ」と答えると、ダイアナは「でも、私なら生きることを選ぶわ」と応答する。

ダイアナが懐妊した。新しい生命の誕生を待ち望む二人。幸福感に溢れているとき、ロビンが突然倒れ、マックイーン医師の病院へ担ぎ込まれた。ポリオウイルスに感染し、首から下はまひして動かない。自力呼吸もできず、ベッドに寝たまま人工呼吸器を着けていないと生存できない。それでも、マックイーン医師は「余命数カ月だ」と厳しい状況を告げる。毎日、ロビンの病床を訪ねるダイアナ。何も出来ずに横たわっているだけのロビンは、ダイアナの愛情に感謝するよりも辛さが重くなり、「死にたい」という態度を見せる。だが、ダイアナは「でも、あなたは生きている。それが現実。私が来るたびに『死にたい』という言葉は言わないで」と強く諭す。そして、ジョナサンが誕生するのを待って、ロビンを連れて帰国することを決断した。

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1960年、英国に帰国。相変わらず、死にたいと思い詰めているロビンに、「私があなたにできることは何かある?」と問うダイアナ。ロビンは「ここ(病院)を出たい」と一言。だが、病院を出ることは人工呼吸器の故障に気づかなければロビンの死を意味する。病院に横たわって生きながらえるか。病院を出て死期が早まるリスクを受け入れて家族と暮らすか。リスクを選び取ったロビンの意志を応援する決意を固めた。ダイアナは、売りに出されている古い館を買い求め、看護師の介護方法を必死に覚える。「ここを出たら2週間で死んでしまうぞ」と止める主治医の警告を振り切り、ロビンを病院から連れ出して夫婦と子どもと愛犬ベンジーの生活が始まった。ロビンに笑顔とジョークがよみがえる。ダイアナ一人での介護を危惧する兄たちに、かつてブラッカー家に仕えてダイアナの育児をしていたティド(ペニー・ダウニー)が「私がいます」と手伝いを買って出た。

ロビンの友人たちもよく訪ねてくるようになった。ある時、ベビーカーからひらめいたロビンのアイデアを受けて、小型化した人工呼吸器を取り付けた車椅子を開発した。電源は2~3時間程度しか持たないが、行動範囲は格段に広がる。その車椅子を自動車の助手席に設置して、全身不随の障害者が出歩き、自分の“生活の質”を向上できるように資金援助者を求めて走り回るロビンとダイアナの家族。ロビンは、自分が生き続ける意味と目標を持つことができた…。

ヒューマニストらしい
ロビンの事業と身終い

1960年代中ごろの当時は、ロビンのような全身不随障害者が病院の外に出て支援者を探しまわり、障害者が自分らしく生きていくための“生活の質”を啓発するため旅する姿は、多くの人々を驚かせた。ロビンを演じるアンドリュー・ガーフィールドは、うつ状態のように“死ぬこと”ばかりに囚われていた悲嘆の表情から、ダイアナに諭されて息子ジョナサンを見守る責務を全うしようとする。ダイアナや友人らと障害者用車椅子の改良や全身不随障害者を啓発する旅に出かける喜びを、動かすことができる顔の表情だけで見事に描いている。ロビンを介護し、支えるダイアナの労力と事業を推進するオフィスワークなどの大変さは想像に難くないが、ストーリー展開にはあまり描かれていない。

ロビンの意志の力強さはヒューマニストの在り方として存分に表現されている。それは、自分の生き方を切り拓く強さではあっても、生かされているという“委ねる”しなやかな心の力の強さとは異なるのだろう。ロビンがポリオ患者としては最も長生きをした64歳の最期の身終いの描き方にも、それは語られているいるようにも思えた。 【遠山清一】

監督:アンディ・サーキス 2017年/イギリス/118分/映倫:G/原題:Breathe 配給:KADOKAWA 2018年9月7日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー。
公式サイト http://breath-movie.jp
Facebook https://www.facebook.com/breathmovie.jp/

*AWARD*
2017年:第71回ロンドン映画祭オープニング上映作品。第42回トロント国際映画祭ガラ・プレゼンテーション出品作品。第26回ハートランド映画祭Truly Moving Picture Award受賞。第26回フィラデルフィア映画祭作品賞ノミネート。