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 天皇代替わりに伴う大嘗祭が2019年11月14〜15日に実施される。大嘗祭は、天皇神化の儀式とも言われる。昭和から平成への代替わり時の大嘗祭では政教分離の観点でキリスト教会内外から問題視する声が上がった。

 聖書考古学資料館(TMBA)は、今年、天皇代替わりを巡る様々な宗教儀礼を意識し、旧約聖書の背景となる古代オリエントの宗教儀礼について講演会を連続して開催している。6月には津村俊夫氏(聖書神学舎教師、聖書考古学資料館理事長)が「カナンの王権と宗教儀礼−大嘗祭を見据えて−」と題して語った。これを踏まえ、秋には9月10日「旧約時代の死者儀礼」(月本昭男・上智大学特任教授)、10月29日「エンドルの霊媒女」(高井啓介・関東学院大学准教授)、12月3日「メソポタミアの魔術」(田村将・聖書神学舎教師)を開く。各午後6時半〜8時。千代田区神田駿河台のお茶の水クリスチャン・センターで。1500円。学生500円。TEL03・3296・8889

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 天皇の宮中では年間を通して、月例行事、宮中三殿での行事などが執り行われている。宮中三殿は「太陽女神」であるアマテラスを祀る賢所、自然崇拝である八百万の神を祀る神殿、天皇の先祖崇拝をする皇霊殿の三殿だ。新天皇即位時の大嘗祭は、「神のお仲間入り」の儀式だと明治神宮宮司らは語っている。

 6月の講演で津村氏は「異教社会での信仰という点では、カナンやローマ、天皇制の日本も本質的に同じものがある」と語った。カナン地域にあるウガリット遺跡の発掘文献などからカナンの宗教儀礼(太陽神礼拝・先祖崇拝・豊穣祭儀)を紹介した。

 王家の文書には、月例祭や儀礼の記述があり、祭主としての王の姿が読み取れた。神々のリストの第一番目は先祖神であり、王たちは死後に神格化された。東地中海は共食飲酒して「死霊」と交わる「マルゼアハの制度」があり、エレミヤ16章8節では、「弔いの宴会の家」として描写されている。祖霊を呼び出し、王を弔う儀式では、太陽女神が死霊を冥界に導く。

 このようなカナンの宗教状況とは対称的に、「聖書は死後の世界については、くわしく語らない」と指摘。「死後の世界を否定しているのではなく、異教社会で、過度な描写があることに対する警告ではないか」と述べた。聖書で10回以上登場する、よみに下る表現については「『聖書 新改約  2017』では『黄泉』とは表記しなかった。聖書は死後の世界を描写するのではなく、「よみに下る」は比喩表現、慣用表現としてとらえられていたと考えられる」と話した。

 太陽神信仰については、申命記4章19節や創世記1章、詩篇19篇を引用して、「聖書ではあくまで太陽は被造物」と述べた。「イスラエルの王権では、王は神ではない」とも強調。「神こそが永遠の王。王は、神のしもべで、神の代理、民の代表です」

 「あくまで天皇個人への尊敬と、宗教性を持つ天皇制の問題は区別したい」とした上で、「天皇制には信教の自由への侵害がある」と注意を向けた。「聖書に生きる者の確信は、死に勝利し復活されたキリストにある希望、神の恵みによって生かされるいのちの喜び、万物の創造者、歴史の主である神への信頼。これらの観点から日本の宗教問題も整理しないといけない」と述べた。

 質疑では、「聖書の神ではない神々とそれを信じる人の存在をどうとらえるべきか」「死者を祀る日本の文化について」「靖国神社での奉納や参拝などをするクリスチャンたちに対して」など質問が寄せられた。

 津村氏は「様々な立場については、その背景を知り、対話していくことが大事だ」とした上で、「カナンでは、王が死んで神になる、他のメソポタミヤ地域では、王と女神とが聖婚して一体化する、エジプトでは生まれながらに王は神。オリエントでもいろいろな神がいる。日本も似ている面もあるが同一だということではない。様々なパターンがある。聖書が語る神を唯一の神と信じ、聖書を啓示の書であると知らされていなければ、人間は勝手な判断をして様々な神を造ってしまう」と語った。【高橋良知

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