美しいオンナンに一目ぼれしたサムグァンは猛アタックで結婚したのだが… (C)2015 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & DHUTA. All Rights Reserved

現在は、日本も韓国も“献血”による赤十字社主体の血液事業体制が敷かれているが、1950~60年代は、民間血液銀行への“売血”が主流で、輸血による感染症などさまざまな社会問題を招いていた。ハ・ジョンウの監督作品2作目は、その50年代中頃の韓国混乱期の庶民の暮らしと血縁意識を描いている。

長男と血の繋がりがないと
11年後に知ったショック

朝鮮戦争の休戦協定が締結し荒廃した国土復興に取り組み始めた1953年夏。大工の現場仕事で暮らしているホ・サムグァン(ハ・ジョンウ)は、工事現場にポップコーンを売りに来た娘オンナン(ハ・ジウォン)に一目惚れしてしまう。オンナンには商才があって羽振りのいい恋人ハ・ソヨン(ミン・ムジェ)がいる。それでも、何としてもオンナンと結婚したいサムグァンは、自分の血を売って結婚資金を作りオンナンの父親(イ・ギョンヨン)に取り入り結婚の承諾を得る。

11年後。3人の男の子を授かった。とりわけ利発で男気のある長男イルラク(ナム・ダルム)は、サムグァンも可愛がっていた。だが、いつのまにか周囲にイルラクはハ・ソヨンの子どもではないかとの噂が広がる。イルラクが、サムグァンに「みんなが僕のことをハ・ソヨンさんに似てるって」と問い質すほど。自分の子どもだと自信満々のサムグァンは、近所の者たちの前でイルラクの血液型の結果を開封して、噂を否定しようとする。だが、結果はハ・ソヨンとオンナンとの間に生まれたことを裏付けてしまい、オンナンもサムグァンがプロポーズする前に一度だけ迫られたことを認めた。

立つ瀬がなくなったサムグァン。仕事を怠けるようになり、売血で生活するようになる。オンナンへの嫌味、何の罪もないイルラクへの嫌がらせが高まっていく。それでも、イルラクはサムグァンへの尊敬の念は変わらない。ある日、ハ・ソヨンが急性脳炎で倒れた。祈祷師を呼んで必死なソヨンの妻は、血のつながりのある男の子が祈祷すれば助かると言う祈祷師の言葉を信じてイルラクを養子に迎えて大学にも入学させると申し出てきた。後ろめたい気持ちを持ちながらも、人の命を助けるのが大事とイルラクに因果を含めて送り出すが…。

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血の繋がりがなくても
家族になれる

原作は中国のベストセラー作家・余華(ユイ・ホア)著「血を売る男」(邦題、河出書房新社)。50年代から60年代文化大革命の時代を舞台に、中国人の血に対する観念と売血で長男の治療費を捻出しようとする主人公・許三観の生き方をとおして中国の文化・人生観が描かれているベストセラーを、ハ・ジョンウが映画化権を得て、舞台を血縁・地縁の繋がりが堅固な韓国に置き換え、監督・主演を務めている。

イルラクは、ハ・ソヨンと同様に急性脳炎で倒れ、大田(テジョン)の緊急病院からソウルの大病院へ緊急搬送される。各地の病院に立ち寄り売血で手術費を稼ぎ、ソウルの病院へと後追いするサムグァンの凄まじさ。我が子と思っていたのが他人の子と知り、愕然とし失意の淵に陥れられた境地から、その子の命を救うため振り絞るように押し出されていく壮絶な決断と行動。血の繋がりがなくても命をかけて守ろうとする家族になれることを、映画らしく雄弁に語っている。 【遠山清一】

監督:ハ・ジョンウ 2015年/韓国/124分/映倫:G/原題:ホ・サムグァン(許三観)、英題:Chronicle of a Blood Merchant 配給:ファインフィルムズ 2018年12月22日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー。
公式サイト http://www.finefilms.co.jp/kazoku/
Facebook https://www.facebook.com/映画いつか家族に1222土公開-1203403989784834/

*AWARD*
2015年:第17回ハワイ国際映画祭スプリングショーケース出品。 2016年:第8回沖縄国際映画祭特別招待作品。 2018年:第26回フィレンツェ韓国映画祭出品。