(C)2018 WH Films Ltd

1980~90年代の全盛期に8度グラミー賞に輝き、全世界で2億枚以上のアルバムを売り上げた歌姫ホイットニー・ヒューストン。彼女の誕生から歌手としてスターダムを駆け上り、映画「ボディガード」(1992年)の大成功によって主題歌“オールウェイズ・ラブ・ユー”が生涯最大のヒット曲となり頂点を極めたが、夫婦の不仲や薬物中毒スキャンダルなどで人気急落。48歳で不慮の死までを追ったドキュメンタリー。

教会コワイヤーと母親
に鍛えられたゴスペル

映画のオープニング、ホイットニーが揺れる橋や大男に追われる悪夢について語る声が流れる。母親のエミリー・“シシー”・ヒューストンは「悪魔があなたの魂を狙っている。悪魔に魂を売ってはいけない」と彼女に告げる。このドキュメンタリーが、たんに成功と転落への足跡を描くだけでなく、ホイットニーの内面に光を当てながら彼女の真に求めていたもの、心の奥底にあった悪夢の源泉に迫ろうとしている幕開けを感じさせられる。

母親シシーは、エルヴィス・プレスリーやアレサ・フランクリンなどのバックシンガーを務めたスウィート・インスピレーションズのリーダーで、日本のヤマハ音楽祭にも出演するなどソウルミュージック界で活躍していた。ホイットニーの母方のいとこにはディオンヌ・ワーウィック、ディ・ディ・ワーウィックらがおり、シシーと親しく交流していたアレサ・フランクリンやダーレン・ラヴも幼少期からホイットニーの傍に居て可愛がり、音楽的には恵まれた家系に生まれ育った。教会のコワイヤーでも天性の声の良さと母シシーに鍛えられた歌唱力を発揮し10代の早いうちからソロヴォーカルを務め、時にはシシーのライブステージでも歌っていた。

“ニッピ―”の愛称で家族みんなから愛されたホイットニー。だが、10代のときに両親が離婚。ホイットニーの養育権を得たシシーは、寄宿舎のあるカトリック系の女子校に入学させる。その女子高で後にホイットニーのステージビジネスをサポートする親友ロビン・クロフォードと出会う。美貌とトムボーイな魅力持ったホイットニーは、高校生時代からモデルの仕事をして女性誌の表紙を飾るなど活躍する。そんなホイットニーが、シシーとステージ歌っているのを見た大物プロデューサーのクライヴ・デイヴィスに見いだされレコードデビューを果たすとデビューシングルから次々ヒットチャートを賑わしスターダムを駆け上っていく。

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信頼していた両親の離婚は、ホイットニーの結婚願望を現実よりも夢多きものに昇華する。彼女は、映画「ボディガード」の製作時期にボビー・ブラウンと結婚する。映画「ボディガード」は大成功を収め、作中で歌ったアルバムはグラミー賞を獲得しホイットニーはアーティストとして絶頂期を極める。一方、夫のボビーは人気が停滞し、やがて妻ホイットニーへのドメスティック・ヴァイオレンス(DV)や薬物中毒などのスキャンダルが表沙汰になっていく…。

家族らの赤裸々な証言とホイットニーの
内面の苦悩を見つめるマクドナルド監督

本作がホイットニー・ヒューストン財団公認のドキュメンターリー映画であることに驚かされる。幼少期に住んでいた地域環境から、ホイットニーも早くからドラッグに浸かっていたことや、両親が仕事に忙しい時期、親戚の家に預けられていた時期にいじめに遭っていたなど彼女の内面性やトラウマになった出来事にまで踏み込んでいく。光り輝く華々しい人生の表舞台と、光の裏側になる影の世界を分け隔てなく見つめることでホイットニー・ヒューストンという稀代のアーティストと家族の実像を浮かび上がらせていく。

夢見ていた家庭を壊すまいと頑張っていたホイットニーだが、ドラッグに浸っていた夫ボビーからのDVを受け離婚。スキャンダルとドラッグ、そして父親の裏切りは破産寸前へと急速な転落をもたらす。「このままじゃ、イエス様にお会いできない」と、はじめて自分自身の意志で薬物療法に取り組んだの言葉が哀しい祈りのようにも聴こえる。 【遠山清一】

監督:ケヴィン・マクドナルド 2018年/イギリス/英語/120分/ドキュメンタリー/原題:WHITNY 配給:ポニーキャニオン/STAR CHANNEL MOVIES 2019年1月4日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。
公式サイト http://whitneymovie.jp
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