3月10日号紙面:復興、まちづくり、共生へ 震災支援と過疎のまちでの教会形成 岩手・大船渡、東北宣教プロジェクト
東日本大震災発生から3月11日で8年がたつ。キリスト教会は震災直後から国内外の協力で支援活動を続け、物的な支援とともに、関係性の中で心の必要にも応えていった。福音に触れた人々の間からは教会も生まれている。被災した地域では、元々もっていた過疎の問題が課題になっている。そのような地域において教会はどう向き合えるのか。岩手県大船渡市、陸前高田市を中心に活動する、日本同盟基督教団東北宣教プロジェクトでは、支援とともに教会開拓が具体化しつつある。同現地リーダーの齋藤満さんを訪ねた。【高橋良知】 (特集 東日本大震災から8年を4、5面で)
写真=指編みをいっしょに実践
写真=「ふまねっと」はペアで
「地域の高校に行くと、先生たちは『今の1、2年生が最後だ』と言うんです」と齋藤さんは言う。「その下になると、もう震災のころの記憶がほとんどないんですね。そういう世代になってきたんです」
写真=工事中の防潮堤
写真=大船渡駅付近
広範囲にわたって津波の被害を受けた大船渡市では、死者・行方不明者は419人、建物被害は5千592世帯に上った。
かつての中心地大船渡駅周辺では空き地も目立つが、真新しい公共施設、店舗なども建っていた。頑丈な災害公営住宅のアパートもあった。「公営住宅に入居している人の震災割引がもうすぐなくなる。すでに一般の人も入居し始めているが家賃は高いので、補助無しでは厳しい。若い人は自分でローンを組んだほうが安いと家を建てている人もいます」
いくつかの工場の撤退などもあり、市全体では人口流出が深刻だ。しかし水産業、セメント業、食品会社、製菓業などがまだまだあり、「周辺のまちに比べ、復興は進んでいる。陸前高田市や釜石市から通勤してくる人たちがいる。陸前高田市は、まだ20か所以上仮設住宅がある。災害公営住宅もできたが入居は進まないらしい」と話した。
日本同盟基督教団は、2015年に閉じた震災復興支援本部に続く働きとして東北宣教プロジェクトを始めた。派遣された齋藤さんは、国内外諸教会の協力で拠点ができていた大船渡市で支援と教会開拓をする。
当初齋藤さんは仮設住宅に住み込んで支援を続け、家族がいる盛岡市に毎週往復していた。16年には、現在のグレイスハウスを借家で入手できた。
海外とのつながりを生かして、地元の高校で国際交流企画を実施した。直接高校の先生たちにプレゼンし、まず大船渡高校、続いて大船渡東高校で実施することができた。
仮設住宅以来関わってきた大立集落の人たちは、かつての集落に近い高台の住宅地に移住した。そこに新設された永浜公民館に毎週通い、健康運動「ふまねっと」を中心としたコミュニティー活動を続けた。この働きは、行政や地元紙などでも注目された。
新たに、数か所公営住宅を紹介された。それぞれの公営住宅には隔週で回っている。独自にかかわりをもった公営住宅もあった。「中心地から離れていたので、そこには行政の支援も入っていなかった。かつて国際NGOで働いていた経験から継続的な関わりが大事だと思っている。数か月に1回では関係性は築けない」
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取材当日は、シンガポールの長老教会による日本のための支援組織EPJMを通して1組の家族が来ていた。歯科医のエルビンさん、シルビアさん夫妻と子どものリナさん、ダニエルさんだ。EPJMはほぼ毎月支援チームを岩手に送っている。
永浜公民館では、「ふまねっと」を地域の人々といっしょに実践。リズムに合わせて、足を交互に動かしてネットを進んでいく。記者は2016年にも「ふまねっと」の活動を取材した。当時は多くの人の動きがぎこちなく、立ち止まってしまう人もいた。今回はみな慣れてリズムカルに歩いていた。
続いてエルビンさんたちがフルート、バイオリン、ギターを交えて賛美歌をリード。花や山、自然を歌う日本の唱歌のメロディーに近い賛美歌を日本語で歌った。シンガポールのお菓子をいっしょに食べた後は「指編み」。手元で編み方を指導しながら距離が縮まる。
最後にシルビアさんが一言挨拶をした。シルビアさんは来日4回目。「シンガポールの周りの人からもなぜ、そんなに日本に行くのかと言われる。休暇で日本に来ているわけではない。神様の愛を分かち合いたいから。神様はお一人ひとり愛している。見守ってくださる。寒い季節ですが、暖かくなるように」と語り、祈りで閉じた。
盛岡に行くというエルビン一家を送った後、大船渡市防災観光交流センターを訪ねた。屋上からは市街を見渡せた。震災を振り返るコーナーや防災の取り組みのほか、交流施設になっていて、室内遊具で子どもたちが遊んでいた。齋藤さんは地元NPOのメンバーと気軽に会話していた。春に来る予定のゴスペルチームが参加できるまちのイベントのアイデアを相談していた。地域のリーダーとのかかわりも広がっている。「復興から、まちづくり、そして過疎の町との共生という段階にきている」と言う。
グレイスハウスも地域の人々との交流の場になっている。定期的なものは毎週の礼拝、子ども英会話教室、毎月の社会人向けの英会話教室、ビーズ教室などがある。「小学校でも英語の授業が始まり、英語教育への関心が高い」と言う。ほかにも様々な支援団体の協力で美術ワークショップ、茶道講座なども実施した。「茶道講座では地域の家元もかかわるようになった。クリスマス前には、地元の杉の葉を使ったリースづくりもした。昨年は20人くらい参加した。地元の人が山から杉の葉を提供してくれる。お母さんたちはキッチンを使っておもてなしをしてくれたり、漬物を差し入れてくれる。地元の人の協力が重要。教会を敷居の高いところとしないで、人の流れをつくりたい」
一方「仮設や公営住宅の人は、自分でなかなか移動できない。その人たちに教会に来てというのは難しい。だからこちらから出て行きます」