(C)2017 Green Films AIE, Diagonal Televisio SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

毎年、イギリス連邦およびアイルランド国籍の著者による、英語で発表された長編小説に授与されるブッカー賞(1969年創設)の受賞作家ペネロピ・フィッツジェラルドの“The Bookshop”(1978年刊)が原作。1959年の英国、書店の無い片田舎の町で亡き夫との夢だった書店を開いた未亡人が、その土地の権力者と習わしに固執する風圧に向き合わされ理不尽な偏見や妬み嫉みを受けて妨害に遭う女性の物語。’50年代の英国情緒豊かな情景のなかで、ただ書店をやりたい良い本を町の人たちに読んでもらいたいという夢を実直に果たしていきたいという夢を阻む理不尽な町の人々。それは、ビジョンと文化を“滅ぼす者”たちが存在する厳しい現実を物語っている。

【あらすじ】

1959年、イギリス・サフォーク州の小さな海辺の町ハードボロー。夫を戦争で亡くし悲しみに暮れていたフローレンス(エミリー・モーティマー)は、書店が一軒もないこの町で夫との夢だった書店を開くことを決意する。ロンドンの書店で働いていた二人の出会い、結婚してからも二人で読書を愉しみ語らってきた日々の思い出とともに、町の人たちにも読書の愉しみを伝えたいと夢の実現に踏み出した。

フローレンスは7年間も空き家のまま目抜き通りににある「OLD HOUSE」を書店にしたいと思い、銀行に融資を申し入れたが何度も断られる。それでもフローレンスは諦めない。ついにボロボロの「オールドハウス」を買い取った。町の有力者ガマート夫人(パトリシア・クラークソン)からパーティに招待されたフローレンスは、ドレスを新調して出かけた。ほとんどの招待客は、フローレンスが書店を開く準備に取り掛かっていることを知っていた。だが、温かいエールをおくる雰囲気ではない。主催者のガマート夫人は、書店開業をほめながらも、「OLD HOUSE」は芸術センターにしたいので自分に譲ってほしい、ほかにもいい物件があるだろうと言う。ガマート夫人の慇懃無礼な申し出に、フローレンスは丁重な言葉遣いだがきっぱり断って立ち去った。

それ以後、フローレンスの周囲が騒がしくなる。町の人は、いい店の物件があるとフローレンスに話を持ち掛けてくる。「OLD HOUSE」の契約を遅々として進めようとしない弁護士。それでもフローレンスは、毅然として準備を進めついに「OLD HOUSE BOOKSHOP」の看板を掛け、夫との夢を一歩踏み出せたことを喜ぶ。

書店の佇まい、店内の落ち着いた雰囲気、1950年代の初版本の装丁デザインの味わいなども愉しめる。 (C)2017 Green Films AIE, Diagonal Televisio SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.

「OLD HOUSE BOOKSHOP」の最初のお客はエドモンド・ブランディッシュ氏(ビル・ナイ)。40年間、館に引きこもり読書しかしない人物として知られている。町の子どもに「読むべきいい本があったら送ってほしい」とメッセージを託してきた。早速、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』(1953年刊)を送るフローレンス。1軒しか書店がない町、来店客も増えて忙しくなったころ、おしゃまな小学生の女の子クリスティーン(オナー・ニーフシー)が雇ってほしいとやって来た。聡明でものおじしないクリスティーンを手伝いに雇うことにしたフローレンス。ある日、ガマート夫人のパーティで知り合ったBBC職員というマイロ・ノース(ジェームズ・ランス)が、世間で賛否両論を巻き起こしている問題作、ウラジミール・ナボコフの『ロリータ』(1955年刊)を持て来てフローレンスに紹介した。一読したフローレンスは、ブランディッシュ氏に町の人たちに読んでもらってもよい本か意見を聴いたうえで、250冊発注すると評判を呼び瞬く間に売れていった。

ガマート夫人は「OLD HOUSE」を手に入れたいという思いを諦めていなかった。新しい書店を出店して「OLD HOUSE」の売り上げを減少させるなどさまざまな手段を講じてフローレンスを窮地へ追い込んでいく。ブランディッシュ氏はガマート夫人とは曰く因縁がある様子で、見かねてガマート夫人の館へ談判しに行く決心をする…。

【見どころ・エピソード】

落ち着いた女性のナレーションが物語をストーリーテリングしていく。フローレンスの人柄を「世の中には滅ぼす者と滅ばされる者がいる」ことを気づこうとしない実直な女性として語っている。書店を開き本に囲まれていることの幸せを求めることを阻む、この世の権力を持ったソサエティ。妨害されても、力で対抗するのではなく、夢を追う信念だけで邁進するフローレンスの芯の強さをブランディッシュは「勇気に満ちあふれている」とリスペクトする。フローレンス、ブランディッシュ、ガマート夫人の関係と心情が、エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン三者の演技によって見応えのある妙味を醸し出している。ナレーションの落ち着いた声の主が、ラストのシークエンスで明かされ、驚きとともに文化を創る場としての書店へのメッセージが印象深く伝わってくる。 【遠山清一

監督・脚本:イザベル・コイシュ 2017年/イギリス=スペイン=ドイツ/英語/112分/原題:The Bookshop 2019年3月9日(土)よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://mybookshop.jp
Facebook https://www.facebook.com/mybookshoop/

*AWARD*
第68回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門出品作品。 2018年:第32回ゴヤ賞監督賞・作品賞・脚色賞受賞。第10回ガウディ賞美術賞・作曲賞受賞ほか多数。