インタビュー:フランス映画「12か月の未来図」のオリヴィエ・A=ヴィダル監督
フォトジャーナリストとしてユネスコのミッションに参加し世界中を取材していたオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルさんは、教育システムや教育機会の平等など教育問題にも長年深い関心を寄せていた。2002年からは短編映画を監督していた。「映画プロデューサーと教育の格差問題の話題でこの作品の構想を話した時、賛同してくれて撮ることになった」という。本作が長編作品の初監督になるヴィダル監督に話を聞いた。【遠山清一】
2年間“登校”して
教育現場を取材
ヴィダル監督は、「主人公の内面に切り込み、現場をリアルに知るために、数多くの中学校や職業訓練学校に“登校”し、教師や教育関係団体と面談するなど2年間かけて教育の現状を取材して」この作品の脚本を練り上げた。教師役はプロの俳優だが、生徒たちは実際に移民の子たちが出演している。
エリート校のベテラン教師が
教育困難校で出会った“生徒”たち
パリのエリート校で国語の教師を務める主人公のフランソワ・フーコは、移民地区が多い郊外の教育困難校の教育レベルの低下問題に取り組む国民教育省の専門官との会話で、「問題の解決策は都会のベテラン教師を派遣することだ」と助言した。後日、国民教育省に招かれ、新たな教育システム構築のため1年間だけ教育優先地域に在るバルバラ中学校に派遣される。
担当したクラスの生徒全員が移民の子どもたち。同僚の教師たちは「生徒の半分は問題児。問題を起こせば退学処分も仕方ない」と諦め顔で言う。だが、フランソワは、それでは教師として安易すぎると反発するが、「理想はエリート校で追及してくれ」とやっかみな応答が返ってくる。
クラスの中でも問題児は反抗的なセドゥ。「レ・ミゼラブル」を教材にして少しでも学習意欲を高めようとするフランソワの努力が実りつつあったとき、遠足でベルサイユ宮殿に行った際にセドゥが気を引こうとしている女生徒と問題を起こし、指導評議会に掛けれら退学処分を宣告されてしまう。退学させられるとセドゥは、一生社会から落ちこぼれ、もう這い上がれなくなる。フランソワは、諦めずに校長を掛け合い、生徒の未来を守ろうとする。
「教育現場の現実が描かれている」
教師たちのレスポンスがうれしい
ヴィダル監督は、エリート校の教師と教育困難校の教育格差というコントラストの強い設定で描いたが、「公教育システム全体の問題を取り扱うことは難しので、移民・貧困・家族の無関心など特定の問題を物語にしましたが、これらは特定の地域の狭い問題ではなく、現在のどの国のどこのにも生じている普遍性を持っています」と言う。じっさいに公開後、「教育現場の教師たちから『まるで自分に姿を観ているようだ』とか『教育の現場がリアルに描かれている』と評価するリアクションが寄せられたのがうれしい」という。
本作の原題Les grands espritsは、Les grands esprits se rencontrent(素晴らしい心が出会う)というフランス語の慣用句に因んでプロデューサーがアイデアをくれてたタイトルでヴィダル監督も気に入っているという。たとえ1年間の派遣であっても、教師と生徒の心が出会うとき、生徒は自分の未来図を描くことの喜びを知る。教師は、生徒の内なるものを引き出す助け手であることをリアルの感じさせてくれる作品だ。
監督・脚本:オリヴィエ・アヤシュ=ヴィダル 2017年/フランス/フランス語/107分/映倫:G/原題:Les grands esprits、英題:The Teacher 配給:アルバトロス 2019年4月6日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://12months-miraizu.com
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