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音楽を愛し妻と娘との穏やかな日々を願うキダンの家族だが… (C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision

2012年にアル・カイーダ系武装集団に占領され“危機にさらされている世界遺産”リストアップされた西アフリカ・マリ共和国の古都ティンブクトゥが舞台に設定された物語。実際に起こった事件をモチーフにして、偏狭な価値観を強制し内心の自由を制圧していく恐怖感と、それにおののきながらも抗していく人間の存在感が静かに深く描かれている。

物語は、ティンブクトゥに近いニジェール川沿いで牛を放牧し、音楽を愛してテント生活しているキダン。妻サマティを愛し、娘トヤを“俺の小鳥”と呼んで愛おしむ。戦士だった父親を亡くしたイサン少年には、牛の世話をさせて息子のように可愛がる。

だが、ティンブクトゥはイスラム過激派に占拠された。途端に発令された音楽禁止、サッカー禁止、女性は靴下と手袋を着用しろなどと日常生活にも細かい指示を出す。市場で魚を売っている女性は、「手袋をして魚が売れるか!。そこまで言うなら私の両腕を切れ」と若い兵士に食って掛かる。思わずひるむ兵士たち。

モスクに銃と軍靴で上り込みジハード(聖戦)を説く指導者に、保守派で穏健な導師は「私たちも祈りとコーランで聖戦している。ムハンマドは信じる者同士は互いに愛し合うようにと教えている」と応じる。伝統文化の偶像は射撃の的にしても、モスクは破壊できない。

キダンの一家に事件が起きた。イサン少年が目を離したすきに“GPS”と名付けていた牛がニジェール川に入り漁師が仕掛けていた網を踏み荒らした。怒った漁師の槍が“GPS”の急所を射抜き、倒れた。話し合いに行ったキダンだが、漁師ともみ合いになり護身用に持ってい行った銃が暴発して漁師は死んだ…。

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市場で魚売る女性は手袋をしないだけでムチ打ち40回。仲間と家で歌うだけでもムチ打ち、投石の処刑が下される… (C)2014 Les Films du Worso (C)Dune Vision

教義の偏狭な解釈と行動だけを捕えて、ある宗教や思想の全体を否定的に断定することはできない。シサコ監督は、暴力シーンそのものを描くよりも、愛と自由と平和を求める人々の心が、ある価値観を強要し制圧されていく情況の怖さと空気感を描く。一気に殺すことよりも、徐々に追い込み従わせようとするおぞましさ。

だが、重苦しいだけではない。砂漠の国にオアシスのような水に潤う土と光と空気を感じさせる映像美。サッカーボールがなくても、イメージでゲームで楽しむ青少年たちのささやかでも不屈な抵抗。過激派に参加した元ラッパーの兵士は、自分の回心と参加の心情をビデオ撮りされるのだが上司の思うような演技ができないシーンなど、なにかに踊らされ、思考が停止された人間の哀しさをもユーモラスに描かれ、悲劇のなかに一条の希望の光を感じさせてくれる。

監督:アブデラマン・シサコ 2014年/フランス=モーリタニア/97分/原題:Timbuktu 配給:RESPECT(レスペ)、配給協力:太秦 2015年12月26日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。 公開に先立ち12月12日(土)イスラーム映画祭2015オープニング上映(会場:ユーロスペース)決定!
公式サイト http://unifrance.jp/festival/2015/films/film09

2015年第40回セザール賞最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀オリジナルシナリオ賞・最優秀モンタージュ賞・最優秀音楽賞・最優秀フォトグラフィー賞・最優秀録音賞の7部門受賞作品。第87回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。フランス映画祭2015上映作品(上映タイトル:ティンブクトゥ)。2014年第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。

**イスラーム映画祭2015**
東京:2015年12月12日(土)オープニング上映決定!
会場:渋谷ユーロスペース