[レビュー1]両極端を避け、真理の宝が各所に 『キリスト教教理入門』評・豊村泰
一読に値する書籍、ミラード・J・エリクソンの『キリスト教教理入門」が出版されました。「キリスト教神学」の要約版です。著者は福音主義神学陣営の中で、穏健、中庸、バランスのとれた温かい牧会の心を持った神学者と評判です。
本書は、各主要教理やその主題について、いくつかの立場の主要な見解を簡潔に述べた上で、著者の立場を語っていますが、その背景に、聖書的、神学的、歴史的、哲学的に高度で綿密な学究がなされていることが垣間(かいま)見えます。真理の宝が各所にちりばめられているような印象を受けました。聖書に忠実でありつつ、様々な諸課題に誠実に向き合っている姿勢が見受けられ、第三版ならではの近年のトピックへの言及も追加されています。様々な主題を、両極端を避けつつ、絶妙なバランス感覚で表現しており、偏りやすい私たちに適切な示唆が与えられます。弁証的な部分はもちろんありますが、いくつかの教理に関しては謙虚に人間の理性や神学の限界も認め、著者の健全さがよく現われています。
印象に残った個所は、教会の伝道に関して、「…イエスは伝道を、弟子たちの存在理由そのものとみなしていたことがうかがえる…その範囲はすべてを含んでいる…それゆえ、教会が主に忠実で主の心を喜ばせたいのなら、すべての人に福音を届ける働きに携わらなければならない…もしそうしないなら…教会が霊的に間違った状態になる」(385〜386頁)と、まるで神学者ではなく宣教者のような言葉もありました。
ほとんどの章では、まとめの部分に「その教理が意味するところ」が述べられており、教えと生活は離れたものではなく、その教えが私たちにどう関わり影響を与えるのか、教えと実生活の架け橋となるようにまとめられています。
私たちが少なからず持っている教理的な枠組み、それらを整理できる良い機会になることでしょう。一読と言わず、何度も読む価値のあるものと思います。
(評・豊村泰=上郡福音教会牧師)
『キリスト教教理入門』
ミラード・J・エリクソン著、安黒務訳、いのちのことば社 6,160円税込、A5判