映画「イーディ、83歳 はじめての山登り」ーー自分らしさを取り戻させた亡父との約束
体の不自由な夫の介護を長年務めてきた老婦人イーディ。夫をお見送りした彼女の心にお転婆だった青春を思い起こさせたのは、いっしょに山に登ろうと絵葉書を送ってきた父との約束の言葉だった。83歳にして父親との約束を果たそうと独りで登山しようと一念発起したが、なんら体力作りもしていない高齢者の初登山、はらはらドキドキのその顛末に、一歩踏み出す前向きな人生は何歳になってもできるし、協力者・助け手も起こされる。観る者に希望を抱かせてくれる人生賛歌。
「何も遅すぎることはないさ」
ロンドンに暮らす主婦イーディ(シーラ・ハンコック)は、車いす生活で話すこともできない夫ジョージを30年間介護しながら娘ナンシー(ウェンディ・モーガン)を育て嫁がせてきた。ある日、整理していた屋根裏の荷物から生前父親からの絵葉書が見つかった。スコットランド・スイルベン山の写真に懐かしい文字で「この山に登ろう」と書かれたメッセージに想いを馳せていると、階下で物音がして様子を見に行くと夫が亡くなっていた。
三年後、イーディは独り暮らしを望んでいたが、ナンシーは家を売って養護施設に入居するよう強く勧め、イーディを説き伏せる。ナンシーは、屋根裏を整理している時にイーディの日記を見つけ、つい読んでしまう。そこには、長年の介護生活の苦労と夫への憤懣が綴られていた。ショックを受けたナンシーは、「ひとに読ませるために書いたのではない」というイーディの弁明も聞かずに立ち去ってしまう。
ある日、馴染みのフィッシュ&チップス店で追加注文していいか尋ねると店員が「何も遅すぎることはないさ」と答えた。その一言がイーディの心に引っ掛かっていた父との約束、スイルベン山に登ろうという思いを決心させた。イーディは、83歳にして初めての登山で、亡父との思い出を胸に、失われていた自分の人生を探しにスコットランドへ旅立つ…。
麓のロッキンヴァ―村に投宿したイーディは、ひょんなことで知り合った登山用品店のオーナーで登山ガイドのジョニー(ケヴィン・ガスリー)のアドバイスで用具を一式新調し、キャンプの初歩から訓練を受ける。頑固なイーディだが、ジョニーが恋人のフィオナ(エイミー・マンソン)の店を大きくするため投資先探しに熱心なことを聴くうちに、登山訓練を受けながら徐々に胸襟を開いていく。
だが、ジョニーにパブに誘われた夜、いそいそと出掛けたものの自分には浮いた居場所だったことに気が動転し転倒したイーディ。一時は登山も諦めたが、ジョニーは彼女を励まして再チャレンジさせる。
やり残したくない人生を…
ジョニーら若者たちとのかかわりや山で遭難しそうになり避難小屋で助けてくれた不思議な山男の幻想的なシーンなど。やり残したくない人生にいつでもチャレンジすることができ、人生の登山には助け手が要るとのエールが伝わってくる。自分にはできると思っていた自信が打ち砕かれるとき、助けが傍に置かれていることに気づかされるイーディ。詩篇121篇の「私は山に向かって目を上げる。私の助けは、どこから来るのか。…」の聖句が想い起される。【遠山清一】
監督:サイモン・ハンター 2017年/イギリス/102分/映倫:G/原題:Edie 配給:アットエンタテインメント 2020年1月24日[金]よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.at-e.co.jp/film/edie/
公式Twitter https://twitter.com/edie83jp
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*AWARD*
2018年:第42回クリーブランド国際映画祭 国際映画賞受賞。第13回バークシャー国際映画祭 審査員賞受賞