31か月の独房監禁から奇跡の帰還 監獄で忍耐することを学んだ 北朝鮮から解放されたイム・ヒョンス牧師来日講演

北朝鮮に年間150回、福祉支援活動のために訪問。だが、2015年1月20日に突然、北朝鮮に逮捕され、終身労働刑宣告を受ける。しかし17年8月、奇跡的に釈放される。31か月の独房監禁という日々…。そんな過酷な体験をしたイム・ヒョンス牧師(G.A.P.Missions理事長、Total Mission Training Center〔TMTC〕代表)が昨年11月に来日。28、29日、神奈川県川崎市川崎区東田町の同盟基督・招待キリスト教会で、自身の体験を証しした。【中田 朗】

カナダを拠点に北朝鮮支援活動を行うイム氏はこれまで、飢餓に苦しむ北朝鮮の人々のためにラーメン工場を作って配食したり、トウモロコシを運んで提供したり、目の悪い人々のためにメガネ職人600人の協力でメガネ80万個を送る、26か所の学校の屋根を修理する、2千人(男子千人、女子千人)が一緒に入れる浴場を造る、1日200人を収容し教育できる英語教育センターを設置し2千人を卒業させるなど、北朝鮮で様々な事業を行ってきた。
そんなイム氏がある日突然、北朝鮮に捕えられ、2年半に及ぶ独房生活を送ることになった。イム氏は「31か月、独房に閉じ込められていたことを忘れることができない。北朝鮮の裁判は矛盾に満ちていて、下りた刑罰が全く理解できない。彼らの悪質な行為を心から赦したが、あの出来事を忘れることができない。独房生活の間、日曜日が134回巡ってきたが、その時に懐かしい信徒の顔を思い浮かべながら一人礼拝した時のことを忘れることができない」と語る。
逮捕翌日から、一日8時間の強制労働が強いられたという。「寒い北朝鮮で凍った土を、鍬で掘る作業だった。手のひらは、最初は水泡ができ、次に血が出て固まるようになり、やがて1か月もたたないのに手を握ることができなくなった。30分マッサージをしてやっと握れるようになった。上半身は汗をかくが足元は冷たく、靴下4枚とその上にビニールシートを巻き大きな靴を履いて労働したが、それでも凍傷にかかり、足の指が真っ黒に変色した」
食事は、砂まじりの固いごはんと、塩漬けのキャベツのおかずだけ。結局、2か月で手足が動かない状態になり、体重が24キロも減った。横になると息をするのも苦しく、自力で顔を後ろに向けたり上げることもできなくなった。「手足を見た時に、信じられないような自分の姿にショックを受けた」
精神的苦痛も体験した。「監視する兵士たちの言葉の暴力というものがとてもひどかった。そして、私を蹴り続けた。そんな生活が3か月も続いた。彼らを赦すことを祈り続けていなかったら、私は耐えられなかった」
ある日、石炭の捨石を掘り起こして山に移す作業をさせられた。石炭に金槌でくいを打ちつけて壊すけれども、泥のついた石炭は石よりも固い。2か月もすると、振り上げる力もなくなってくる。それでも「早くやれ。続けろ」と怒鳴られる。泣くことも訴えることもできない状態が続いた。
そんな中、石炭を壊すコツを覚えた。イム氏はそれを振動(ジン)、衝撃(チュン)、分離(ブン)、破壊(パッ)という四つの言葉で表現する。「くいを打ちつけるうちに振動が伝わり、ひびが入る。何日か衝撃を与えると、ひびは大きくなり、やがて石炭と石炭が分離する。こうして、塊が崩れるようになった」
この時、自分自身にこんな思いが生じたと明かす。「北朝鮮の人々は心がかたくなになっている。彼らは氷の塊のようで、神様の言葉を伝えても受け入れない。この心を誰が打ち壊せるのか…」
2か月を過ぎた頃、兵士たちの言動、態度に変化を感じるようになったと話す。「私をいじめて苦しめていた彼らの恐ろしい目つきが穏やかになった。大声で悪口を言っていたのに、小声で話すようになった。兵士の妻が作った明太子スープを分けてくれたりビニール袋に入ったお菓子を差し入れてくれた。お風呂に連れて行ってくれ一対一で汗を流してくれた。そしてある日、私のほうに来て「あなたと友だちになりたい」と言って来た。
なぜ態度が一変したのか、その理由が後で分かった。「北朝鮮には世界中のインターネットを調べるハッカーがいて、私のことを全部調べていた。彼らは私の教会のホームページ、You-tubeを調べ、過去5年間の私のメッセージをダウンロードし、それを文字化して毎日細かくチェックしていた。牧師のメッセージは神様の御言葉の解き明かしだ。彼らは私を取り調べる段階で、繰り返し私のメッセージを読んでいた。そこで、彼らの心にジン、チュン、ブン、パッというショックが起きた。御言葉が、彼らの心を動かした」
彼らの心が開かれているのを感じたイム氏は、彼らに聖書物語を、イエスのことを語り始めたという。「私は北朝鮮の地で、神の言葉が人を変えることを体験した。彼らは私の説教を調べているうちに、『イム・ヒョンス牧師は悪い人ではない』と認めてくれた。ある看守は私に悩みを打ち明けるようになった。そして、949日目に釈放された。「私は監獄の中で忍耐すること、忍耐のうちに神を待ち望むことを学んだ」とイム氏は話す。
最後に、北朝鮮について二つのことを覚えてほしいと語った。一つは、北朝鮮を握りしめている悪の政権があること。「1%の権力者の下、99%が奴隷のように生きている。悪の政権から彼らが解放されるよう祈ってほしい」。もう一つは、北朝鮮にも福音を自由に語れる時代が来るということ。「北朝鮮の人々は、想像を絶するように苦しみを乗り越えた人たち。その彼らが救われれば、福音のために命がけで生きるようになると確信する」
「北朝鮮が解放されたら、東北アジアが新しくなる。全世界のクリスチャンが北朝鮮に行って福音を伝える時代が来る。日本の教会はぜひ、北朝鮮の扉が開いた時のための準備をしておいてほしい」と結んだ。