疫病と古代教会 疫病下のローマ帝国内で愛を実践 クリスチャンが圧倒的に増加した 寄稿:丸山悟司 日本バプテスト教会連合御園バプ テスト教会牧師、聖契神学校教師

新型コロナウイルスの脅威は、およそ半年ほどの間に世界の在り様を一変させてしまった。礼拝することをもって自らの信仰の土台としていたプロテスタント教会も、驚くほど簡単に教会に集まることを「自粛」するようになった。緊急事態宣言が解除され、教会での礼拝が再開され始めてきたものの、社会的な配慮のもとに行われる様々な制約を課した中での礼拝が、いつ以前と同様に行われるようになるのか、もしくは、この先も旧に復することなどないのか、依然見通せない状況が続いている。今この事態をどのように見つめ、対処していくべきか、教会の歴史から学びたい。聖契神学校で教会史を教える丸山悟司氏の寄稿を掲載する。

 

私が教える神学校の教会史のクラスで教科書として用いてきた、フスト・ゴンサレス著『キリスト教史(上巻)』(石田学訳、新教出版社刊、2002年)の中に記された「疫病」という言葉に、今年度に入って改めて注意を引かれた。これまでなんとなく読み過ごしていたが、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大に世界が翻弄される今、古代の教会も疫病と対峙(じ)していたという事実が新鮮に映った。

疫病は、二世紀、三世紀と、立て続けにローマ帝国を襲った。二世紀の疫病は、時の皇帝マルクス・アウレリウスが紀元161年に皇帝に即位して4年後の165年に発生した。アウレリウスは、自らの地位の高さに居心地の悪さを感じたのか、『自省録』という名がつけられている自らの日記に、常に謙遜であるようにと自戒を込めて記している。そんなアウレリウスが一転してキリスト教迫害に転じる。その経緯について、フスト・ゴンサレスは次のように述べている。「アウレリウスは初めから、周辺諸民族の絶え間ない侵略、洪水、疫病、その他の災害などに悩まされていた。こうした困難が起こるのはキリスト教徒のせいで、帝国の神々の怒りが下っているからだという説明が広まっていた。はたして皇帝がこのような説明を信じたかどうかを確かめることはできないが、アウレリウスはキリスト教迫害に対して最大限の指示を与え、古い宗教の復興を助けた」(『キリスト教史(上巻)』、60頁)
アウレリウスがその説明を信じたにせよ、信じなかったにせよ、当時、ローマ帝国を襲った自然災害や疫病は、民衆が神々の怒りが下ったと訝(いぶか)るほどに過酷なものであったことが伺われる。現に、二世紀の疫病はその影響がおよそ15年にもわたって継続し、帝国の人口の25~30パーセントが犠牲になったといわれる。また、三世紀に、再度、帝国に襲来した疫病では、帝国の人口のおよそ20パーセントが犠牲になったとされる。紀元250年に始まったその疫病がピークを迎えた10年後の260年には、当時、エジプト・アレクサンドリアで主教を務めていたオリゲネスの弟子、ディオニュシオス(264年頃没)は、イースター・メッセージの中で、いかなる恐怖よりも恐ろしく、他のいかなる災害にもまして恐るべきもの…と、疫病を描写している。

そのような状況下で、説教者たちはしきりに会衆に慰めをもたらし、希望を与えうる説教を講壇から語ることに努めたようである。例えば、神が主権をもってなお世界を治めておられること、イエスがかくも苦しみを受けられたこと、最後の審判において神がすべてを公平に裁かれること、キリスト者には復活の希望があることなどが、説教の主題として掲げられた。また、疫病によりもたらされた患難を、神からの試練、試みとして受け止める向きも強かった。
以上のように、二世紀、三世紀の教会は、外からの帝国による断続的な迫害、異端との闘いに加え、二度にわたって帝国を見舞った疫病の危機に瀕(ひん)した。ところが、ロドニー・スターク著『キリスト教とローマ帝国』(穐田信子訳、新教出版社、2014年)の中に示されている統計によると、ローマ帝国の当時の人口を六千万人と見積もった場合、紀元150年にはクリスチャン人口は0・07%に当たる4万496人、200年には0・36%に当たる21万7千795人、250年には1・9%に当たる117万1千356人、300年には10・5%に当たる629万9千832人と、帝国におけるクリスチャンの数が圧倒的に増加している。これは驚くべき数字であるとともに、教会が激動期にあって発信したメッセージには、ローマの伝統的な宗教が及ばない説得力があったことをも示唆している。また、二つの疫病を経験したローマ帝国内で、一般の国民に比べ、クリスチャンの生存率がはるかに高かった点も特筆に値する。

その理由については、幾つかの要因が挙げられよう。一つにはやはり、クリスチャンたちがその信仰の中心に据えている、イエス・キリストの模範に従って生き、、、、、、、

2020年7月26日号掲載記事