軽自動車をキッチンカーに改造して1600Kmを旅したダーヴィド監督と通訳者のニキ (c)UNITED PEOPLE

東京オリンピック誘致時に”お・も・て・な・し”のパフォーマンスが世界の注目を集める以前、2000年半ばに「もったいない」が世界のキーワードになってひろまった。きっかけは、ケニア出身の環境保護活動家ワンガリ・マータイ女史が「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」が効力を発行する2005年に来日した際、日本の自然や物、消費削減や再生利用などへのリスペクトを一語で表現する「もったいない」の概念に感銘して世界共通の合言葉として提唱したことから“MOTTAINAI”運動が各国で展開された。

そんな日本の「もったいない」精神に魅せられてオーストリア出身のフードアクティビスト(食材救出人)で映画監督のダーヴィド・グロス監督がやってき来日取材。日本でも2017年に公開された「0円キチン」(2015年製作)ではオーストリア、ドイツ、フランスなど欧州5か国を巡り廃棄寸前の食材で料理して食料ロスのアイディアを紹介したダーヴィド監督。本作では、福島から鹿児島まで1,600キロを走破して廃棄食材の現状や「もったいない」精神を実践する食材救出人たちとの出会いと食料ロスをなくすアイデアを探っていく。

福島から鹿児島まで1,600Km
4週間の旅での出会いとアイデア

国連による2019年版の世界人口推計は77億人。そのうちの8億2000万人が飢餓に苦しんでいる。一方で、世界の食料破棄は年間13億トン、食料総生産量の三分の一にあたるという。だが、日本も年間2,759万トンの食品廃棄物を排出し、そのうちの643万トンは、まだ食べられるのに捨てられている食品ロスで、世界でもトップクラス。国民一人当たり毎日おにぎり一個分捨てられていることになるという。

前作「0円キチン」プロモーションの折に来日したダーヴィド監督の通訳を務めた塚本ニキが、本作では通訳者兼旅のパートナーとして出演している。食料ロス問題ジャーナリストの井出留美さんをアドバイザーに迎え、日本の食料ロスの現場を訪ねる。東京では大手コンビニエンスストアーの流通システムによる食品ロスと食品リサイクル工場での家畜飼料生産を見学し食料ロス問題の根幹を見つめる。流通システムでの食料ロスや賞味期限切れなど家庭からの食料廃棄の実態を見つめながら、自然から採れる食材を無駄にしない精進料理を研究している東京の僧侶や、野草料理と日本の気候風土に根差した料理を創意工夫している京都の“若杉おばあちゃん”。

各地で創造性に富んだ”もったいない”料理パーティを楽しく紹介 (c)Macky Kawana

食と自然環境問題は切り離せない。大阪では、の廃材で作られたカフェに元ホームレスの人たちを招待しての食料ロス食材での料理を振る舞う。包装用プラスチック廃材などを最先端技術で再利用しごみ燃料で自動車を走らせるなど北九州市の先進的リサイクル事業所や、地熱発電で活気づく熊本市小国町では地熱での蒸し料理を楽しむ。2050年には世界の人口は97億人に達し食糧不足到来の予測されている。国連の食糧農業機関(FAO)が推奨している昆虫食を実践している東京の二人の青年を訪ねるなど、各地で“もったいない”食材でのキッチン料理パーティをしながら食と地球で暮らし続けるためのアイデアを探る旅が続く…。

サスティナブルな未来へ楽しく
チャレンジさせてくれる映画

ダーヴィド監督は、あるインタビューで本作を撮った目的について「この映画は、誰もが無駄を減らし、より持続可能な生活を送ることを促すことを目的としています。小さな取り組みこそ重要です。サスティナブルな“もったいない”料理は、単に無駄をなくすだけでなく創造的であるため、より楽しさを感じるでしょう」と答えている。

便利で効率的な消費社会に慣れた暮らしは、自然と人との協調性を考えて生活するゆとりを失わせているのかもしれない。本作に登場する実際生活の場で実践されている活き活きした姿は、食の持続可能な発展(サスティナビリティ)への意識を楽しく啓発してくれるロードムービーだ。【遠山清一】

監督:ダーヴィド・グロス 2020年/日本/日本語・英語・ドイツ語/95分/ドキュメンタリー/ 配給:ユナイテッド・ピープル 2020年8月8日[土]よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.mottainai-kitchen.net/
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