映画「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」--「私を見つけて」と聞こえぬ声が胸に響き続ける親の愛
北朝鮮による拉致被害者家族連絡会の代表を務めた横田滋さんが6月5日に逝去した。42年前、当時中学生だった長女めぐみさんが下校途中に失踪。横田さんは妻でクリスチャンの早紀江さんとともに、聞こえるはずのない「私を見つけて」の娘の声を胸に捜し続けた。ついには、めぐみさんだけでなく十数人以上が北朝鮮による拉致誘拐事件という政治問題が絡む実態が明らかになる。本作も失踪した息子を捜し続けている夫婦の姿から物語が始まる。失踪者を捜し求める家族への情報・連絡のなかには心無いいたずらや嫌がらせの類もある。様々な困難や心の苦しみを抱えながらも、「私を見つけて」の心の叫びを捜し求める親の不断の愛が伝わってくるサスペンス。
6年前に公園から失踪した
息子を捜し続ける夫婦
海水に使った泥まみれの服で憔悴し絶望感を漂させて海辺を歩く独りの女ジョンヨン(イ・ヨンエ)。物語は数週間前に遡る…。
6年前、当時7歳だった一人息子ユンスが公園で失踪。看護師を勤めているジョンヨンと元高校教師の夫ミョングク(パク・ヘジュン)は、寸暇を惜しんでいまもユンスの行方を探し続けている。捜索に協力を得ている「行方不明家族 捜索の会」の青年スンヒョン(イ・ウォングン)の案内で、ある母子を訪問した。息子が4年間行方不明だった母子から話を聞くジョンヨンとミョンググ。2歳年下の男の子を見て、未だ見つからないユンスへの想いは募るが、年月をかけて捜し当てた事実は二人の切ない希望をつないでくれる。
生活のこともありミョングクは、高校の数学講師にとの照会話があり面接に赴いた。面談中、スマホに「ユンスを見た」との連絡がはいった。だが、面談を終えて指定の場所へ行く途中、トラックと出会い頭に衝突しミョングクは事故死する。スマホの連絡は小学生のいたずらだった。
夫を亡くし憔悴するジョンヨンに、見知らぬ男からユンスの居場所を知っているとの情報が入る。教える代わりに5000万ウォン支払えという。信用できないというと、公表していないユンスの身体的な特徴を挙げる男。お金と引き換えに、いまはミンスという名前でムナンのネブ島にある「マンソン釣り場」に居ると教えられたミョングク。
ミョングクは居た堪れない思いでマンソン釣り場を訪ねた。しかし、経営者やその場に居合わせた警察署のホン警長(ユ・ジェミョン)までもミンスという名の少年はいないとジョンヨンに答える。だが釣り場の人たちとホン警長らの不自然な対応やユンスより年下の少年の様子を観て疑念を抱いたジョンヨン。その夜、釣り場の建物内を探りに行くと年下の少年が監禁されていたりユンスの情報を求めるチラシなどが散乱してるのを見て疑いを深めていく…。
日本でも増加傾向にある
幼児童の行方不明者数
今年7月に警察庁が公表した「令和元年における行方不明者の状況」によるとこの5年間9歳以下の行方不明者数は増加傾向にある。昨秋、山梨県道志村のキャンプ場で行方不明になった小学1年女児の捜索が、失踪後の台風被害や新型コロナウィルス禍の影響で中断されたいた。その再捜索が今年5月26日・27日に実施された。事故なのか誘拐なのか、情報収集もままならない状況の中で女児を案ずる家族の心痛が憫察される。
本作の誘拐された子どもたちは、軟禁状態の中で虐待され労働を強いられている。釣り客たちは、失踪した子どもには気にも留めないとうそぶく犯行グループ。その情況を察知し救い出そうとする母親の凄まじさを14年振りに映画に主演したイ・ヨンエが好演。悲劇の後に訪れたラストシーンでのイ・ヨンエの表情は、聞こえない声を聴こうとする粘り強い行方不明者家族へのエールのようで強く心に響いてくる。【遠山清一】
監督・脚本:キム・スンウ 2019年/韓国/108分/映倫:PG-12/原題:나를 찾아줘、英題:Bring Me Home 配給:ザジフィルムズ、マクザム 2020年9月18日[金]より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。
公式サイト https://www.maxam.jp/bringmehome/
公式Twitter https://twitter.com/bringmehomeJP
Facebook https://www.facebook.com/bringmehomeJP
*AWARD*
2019年:トロント国際映画祭ディスカバリー部門ワールドプレミア上映作品。シカゴ国際映画祭正式出品品。ロッテルダム国際映画祭正式出品作品。