映画「友達やめた。」ーー人と人とのコミュニケーションを顕わに提示するドキュメンタリー
生まれつき耳の聞こえない今村彩子監督とアスペルガー症候群(ADS)のまあちゃんが、友達関係を築いたものの、ひょんなことから衝突して「友達やめた。」となるまでの起承転…ing。今村監督がまあちゃんに対して「いいひとでいるのをやめた」と宣言したあと、どのような関係を模索していくのか。現実を見つめ合えた二人をとおして、人と人とが分かり合うことの難しさや本質を顕わに提示してくれるドキュメンタリー作品。
聴覚障がい者とアスペルガー症候群
マイノリティな二人の友達物語
今村監督とまあちゃんが親しくなったきっかけは、コミュニケーションの壁にチャレンジするため自転車での日本縦断ドキュメンタリー映画「Start Line」が完成した2017年の初夏。二人の共通の友人を介して今村監督に誘われがまあちゃんが観にきて、その後お茶しながら言葉を交わした。
まあちゃんは聴覚過敏なこともあり手話での会話の方がはっきり言えて楽だという。耳の聞こえない今村監督にはありがたい。映像編集作業で音の編集や字幕作業などでは健聴者のサポートが必要なため、まあちゃんに手伝ってもらっている。
まあちゃんはしゃべりだすと話しが止まらなくなる。ある時は、友人から「(トラブルい原因は)アスペルガーのせいなの?、それとも自分が我慢する必要があるのか?」と言われた不満が止まらない。別の日には、職場の人から職場での人間関係を心配してくれてのようだが「あまり自分のことを話さないように」注意されたことに、「気をつける意味がようわからん」と釈然としない思いを長時間ぶつけてくる。手話で聴き続ける今村監督は、ただただ疲れる。まあちゃんから会話していると止まらなくなるからと、LINEで書いてくるようになった。まずは、まあちゃんの取説。「・うつとアスペルガーと共生しています。・聴覚過敏があります。・手話の方がラクに話せます…」
まあちゃんとの台湾旅行、発達障害者や支援者のワークショップに参加、東京への出張取材に同行してもらうなど折々の出来事と対話をとおして今村監督は、まあちゃんを撮っているのかアスペルガー症候群を撮っているのか分からなくなってくる。その心の揺れ動きがラインと日記から伝わってくる。
年明けに二人で旅行することになった。人とのコミュニケーションが苦手なまあちゃんは、予約の手配など嫌がってしない。どうにか電話リレーサービスで準備した旅行は楽しく過ごせた。だが、旅行最後の日に些細なことから口論になり、お互い無理していい子でいることも、きれいごとでいることもやめることに…
他人とのコミュニケーションに苦手意識がある今村監督がその克服と自分探しにチャレンジして自転車での日本縦断ロードムービー「Start Line」を発表してから4年。その作品をきっかけに親しくなったまあちゃんとどうしたら仲良くやっていけるかを撮ろうとしてスタートした本作。お互いマイノリティだからという意識は、知り合ってほどなく関係ないことが伝わってくる。素直に自分を出し合い、理解し合ってうまくいっているような二人だが、しだいに友達関係でいることの重苦しさ、その心の軌跡が描かれることで人間同士のコミュニケーションとは、友達とは何かという本質的な想いを考えさせてくれる。「友達やめた」二人だが、絶縁ではなく改めて二人の関係性を捜し始めようとする。人間は独りではなく、人とのかかわりを必要としている存在者であることに希望を抱かせてくれているようでうれしい。【遠山清一】
監督・撮影・編集:今村彩子 2020年/日本/84分/ドキュメンタリー/ 配給:Studio AYA
2020年9月19日[土]より新宿K’s cinemaほか全国順次公開。
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