ドキュメンタリー『タネは誰のもの』

2020年6月に国会成立が見送られ、継続審議となった種苗法改定(案)。10月26日に開会された臨時国会で審議再開の動きが懸念されている。種苗法改定(案)が成立すると、品種改良の知的財産保護をたてにグローバル種育企業によって農作物の種子事業が専有され、日本の農家は自家増殖(採種)ができなくなり自営が立ち行かなくなる恐れがあると警鐘を発する。専門家の分析とともに農業の現場から種苗法改定(案)から垣間見られる日本の農業と食の安全への危機感を追うドキュメンタリー。

TTP協定を背景に展開される
種苗関連法案に生産農家の

2017年3月にコメや大豆、麦などの種子を安定的生産及び普及促進してきた主要農作物種子法(種子法:1952年制定)の廃止が可決され18年4月に施行された。種子法廃止が可決された同年8月には、農業の競争力強化の取組を支援するとして施行された農業競争力強化支援法の第八条四項により、公的機関が長年蓄積してきた育種に関する知見を民間に提供促進するようにとうたっている。

種子法廃止と農業競争力強化支援法の施政は、特定種子の海外流出防止策の側面もうたわれているが、もう一つ背景として特定農作物の種子流出を防ぐTTP(環太平洋パートナーシップ)協定があるといわれている。そのため各地の地方自治体の県議会では種子法に代わる種子条例を可決し生産農家と安定供給を保護する努力を展開している。さらに、政府は新品種の保護のための品種登録に関する制度「種苗法」の改定案を国会に提出した。だが今年6月に審議未了で継続審議となり、10月26日に召集された臨時国会で審議再開を進めようとしている。こうした動きを追いながら、専門家の評論とともに生産農家や育種農家など農業現場の声を聴きながら、種苗法改訂案の問題点と影響を指し示していく。

弁護士で本作のプロデューサーでもある山田正彦氏(元農林水産大臣)が、農学博士や弁護士、農水省官僚などの専門家のほか野菜果物など自家増殖の農家とともに、種苗法改定案に賛成の育種家などを訪ねて種苗法改定案による農業への影響と問題点について語り合い、農業現場の伝統と現状をインタビュー取材している。
インタビュー取材で語り合われているおもな問題点。
・優良な特定種子の海外流出を防ぐため種苗法改定案が必要といわれているが、それは事実か。
・種苗法が改定されると農業者は登録された育種権利者から自家増殖(採種)許諾の対価を支払うか、すべての苗を購入しなければならなくなり、生産農家の負担が増大する。
・中南米諸国では30年前に農家の自家採種を禁止するサンモント法案が成立したが、後に農民の暴動などによりサンモント法を廃止する国が続出した。現在はサンモント社などグローバル種育企業が日本やアジアへの事業展開を望んでいる。

ドキュメンタリー『タネは誰のもの』

取材に応答する生産農家の農業現場の声は、種苗法改定案による自家採種の制限や禁止が現実になると、土地の性質や風土にあった農作物が開発育成できなくなる懸念やゲノム編集食品の種子などを判別できずどのような種子を購入しているのかが不明になることなどの疑念を強くする。 一方で、育種研究業者からは、一度購入した種子から自家採種できる現状では、研究開発の対価が不均衡であることから種苗法改定案に賛成している。だが、グローバル種育企業による種子の占有が起こると小規模種育業は困難に陥る。生産農家の自家採種を護るのであれば育種研究業者へのリターン策などなんらかの対応が講じられることも必要ではないかと提言する。

TPP協定やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)などグローバル化が進展しつつある中で、農作物そのものから採取される種子は、そもそも誰のものなのか。知的財産権論議のみでは解をみいだせそうにないテーマを、本作のドキュメンタリーはもっと一般にも届く声として農業と食の安全への関心と論議の必要を提示している。 【遠山清一】

監督:原村 政樹 2020年/日本/65分/ドキュメンタリー/ 配給:きろくびと 2020年10月31日[土]より日比谷コンベンションホール(日比谷図書文化館B1)ほか全国順次公開。
公式サイト https://kiroku-bito.com/tanedare/

**本作ドキュメンタリーは、各地で自主上映会が企画・実施されている。また11月1日(土)よりオンライン配信が開始されるとともに、11月13日(金)からはアップリンク渋谷でも緊急公開(全国の劇場でも順次公開)が予定されている。詳しくは上記公式ウェブサイトを参照。