声明 衆院での強行採決に抗議し、

安保法案の撤回を求める

 

  1. 自公政権の強行採決に抗議する

7月15日衆院本会議で政府提案の安保法案について、民主、維新、共産、社民の野党が採決拒否をする中で、強行採決が行われた。

この間の審議を見ると、安倍政権の答弁は曖昧模糊としたものにとどまり、審議すればするほど問題点が頻出し、国民の大多数が今国会での可決に疑問を覚える中での強行採決は、民意を無視した国会内の「多数者の専制」であり、議会制民主主義を葬り去る暴挙と言わざるを得ない。さらに総計10にも及ぶ既存の法律の改正を「平和安全法制整備法案」として一括審議・強行採決し、さらに1つの新規の「国際平和支援法案」を強行採決するという手続き上の大きな瑕疵を残し、これら一連の法案それ自体も、戦後の日本政府と市民社会が不完全ながらも作り上げてきた立憲主義・民主主義・平和主義を根底からくつがえしかねないものであり、参院の誠実で建設的な審議を経てその撤回を求めたい。

戦後日本は、憲法9条の下、政府として基本的に非戦型安全保障を追求してきたのであり、自国への侵攻という極限(例外)状態においてのみ、「専守防衛」という必要最小限の自衛の実力を行使するという基本的政策を維持してきた。それは同時に、アジア・太平洋地域で1500万人から1800万人といわれる犠牲者(数は未確定)を出し、自国でも320万人の戦死者を出した先の「十五年戦争」への悔恨に基づき、大多数の国民の合意の下で選択した戦後の基本方針であった。それはまた、帝国日本の侵略による戦争の惨禍を受けたアジア・太平洋諸国の政府と国民に対する戦争謝罪と戦争責任の取り方をも含意していた。

この「平和国家」の路線が、今や取り除かれようとしている。集団的自衛権行使を容認するこれら一連の法案は戦争容認法案であり、自衛隊が地域的限定を越えて世界各地に派兵される大きな危険をはらんでいる。それだけでなく、軍事的脅威に対して抑止力万能論に基づく軍事力で対抗するその参戦型安全保障政策は、時代遅れであるだけでなく、東アジアや世界に政治的緊張を強いることになる。それはまた、戦後日本が培ってきた「非戦国家」としての世界規模の信頼をみずから打ち壊す愚かな行為でもある。

 

  1. 立憲主義と民主主義の否定は許されない

こうして安保法案は、日本を戦争する国家へと変え、戦後70年の夏にこの国をポイント・オブ・ノーリターンに追い込むものである。

安倍政権は国会で多数を占めることで、立憲主義と民主主義を無視し、やりたい放題である。(1)内閣法制局長官の首をほしいままにすげ替える。(2)長年にわたって踏襲されてきた政府の憲法解釈を一片の閣議決定で葬り去る。(3)国会審議の開始前に今回の安保法案の成立を対米公約する。(4)安保法案の違憲性を指摘する専門家の良識ある声を無視する。(5)憲法59条4項による60日ルールの適用を可能にするため、国会の会期を95日間も延長し、強行採決への下地作りをする。(6)法案の実質的審議の深まりとは関係なく時間が来たので強行採決をひたすら狙う。

いま 私たちが目にしているのは、国家権力に縛りをかける立憲主義そのものを破壊する憲法無視の政治である。それだけでなく、議会制(間接)民主主義と民意(直接)民主主義の双方を破壊しかねない政治である。

民主主義を成り立たせている表現の自由、国民の知る権利の保障に奉仕する存在である報道機関の報道の自由に対して脅迫的放言が政権与党の国会議員たちの研究集会においてなされたという事態も震撼に値する。この件は、そもそも表現の自由という民主政治に不可欠な構成要素への政権与党の無理解を露呈するような事件だった。現政権が、対米公約を優先させ、国民の声に耳を傾けることなく、安保法制の強行突破のみを念頭に置いているのは、民主主義の破壊でしかない。

 

  1. 日米同盟強化より平和育成に全力を注げ

我が国は平和憲法の下、平和路線を維持しつつ、人間の安全保障に世界各地で寄与し、国連平和活動にも1992年以降優れた貢献を行ってきた。

世界で広く知られている憲法9条に新たな解釈を加え、集団的自衛権に関する法制を整備し採決しようとする安倍政権の決定には多くの国民は当惑している。

2005年に日米間で署名した「日米同盟:未来のための変革と再編」と題する合意文書の下で日米はお互いにいかなる安保協力を、極東だけでなく世界に拡大された地域で行う義務を負うかについては、ほとんどの国民は知らないのが実情である。

第2次安倍内閣成立以来の諸政策には高圧的な印象を国内外に与えるものがいくつかある。近隣諸国の印象は今回の強行採択によりさらに深まり、日中韓3国が協調し、東アジアの平和と安定に寄与する将来的見通しは残念ながら遠ざかるおそれがある。

安倍総理は世界各地の会議で、日本は積極的平和主義であると標榜している。日本は確かに平和を最も熱心かつ効果的に支援し、育成する国として世界的に高く評価され更なる協力が期待されている。従来からの平和路線を継続するだけでなく、NGO、企業、議会、自治体と連携する協調的安全保障を世界の平和勢力と共に推進することを勧めたい。軍縮と平和育成を目指す日本発のキャンペーンが、平和の配当を創出し、紛争防止、持続可能な開発、教育、格差の是正等に振り向けることこそ価値ある先行的平和イニシャティブと考える。

 

2015年7月16日

千葉 眞(ちば しん)

ICU特任教授(政治学)

 

稲 正樹(いな まさき)

同客員教授(憲法学)

 

功刀達朗(くぬぎ たつろう)

同社会科学研究所顧問(国際関係学)